パラレルスザルル×3


 

■40日間のさようなら■<生徒×教師>


教室から見える歪な地平線には、目に染みるほどの濃密な青に、入道雲が立ち上がっている。
たった二人しか残っていない教室でも、夏は静けさには程遠い。
蝉の声が、うるさかった。

「夏休みなんて、嫌い」

終業式を終えると、瞬く間に教室は空になった。
高揚感の欠片だけが、教室のあちこちに落ちている。
その中で、小さく呟く彼の声だけが湿っぽい。

「大多数の高校生の意見を真っ向から否定するなよ」
「先生は、夏休み好きなの?」
「まあ、大した行事もなく生徒との余計な関わりがない分は…幾分か楽だからな」

例えば、恥も外聞もあったものじゃない生徒からの愛の告白とか。
言外に枢木を責めると、幼さを残す拗ねていた顔が、くしゃりと泣きそうに歪んだ。

「僕は、毎日先生に会いたいよ」

強く風が吹いて、乱れた髪を軽く押さえる。
透き通る青空を見上げた。
夏休みを憎いと素直に言える彼が、本当は少しだけ羨ましかった。
彼の言葉は幾重にも奏でられる蝉の声に紛れて、聞こえなかった振りをした。



















■Goog looker■<ナルシストルルーシュ>


自分の内面が汚濁にまみれていることを知っている。
けれど唯一無二の美点がそれらを相殺するのだと、疑うことなく信じてきた。
例えば、グロテスクな内蔵を白く薄い皮膚一枚でこの体をかろうじて覆うように。
まさしくそれは俺の武器であり砦だったのだ。

「一人で泣いたりしないで。顔を見せてよ」

大きな手が髪を撫で、あやすように背を叩く。
優しく深い声に、それでも絶対に顔を上げたりはしなかった。

『ルルーシュは本当に美人だね!』
『すごく綺麗だ』
『君は世界で一番、』

そう、俺は美しい。
世界中の誰よりも。
だからだから、どうか今だけは一人にしてほしい。
こんな醜い泣き顔を、おまえにだけは見せられないから。



















■紫電の標、翡翠の路■<十二国記パロ/麒麟×王>


「気持ち悪い…血の、匂いがする…」
「………」
「ルルーシュ、また、誰かを切ったの?」
「…おまえが血を背負えないなら、"それ"は俺の役目だろう」

吐き捨てると、麒麟―スザク―は青い顔をして、震える手で口を覆ったまま憂いに潤んだ瞳を伏せた。
聖獣である麒麟は総じて、血の穢れを厭うものだ。
スザクは獣の姿態の時分、それは愛らしい巻き毛の鬣をしている。
その面影を残す栗色の髪に、そっとてのひらを翳した。
しかしこのまま触れてしまって良いのかと、わずかに躊躇した。
その時、スザクが顔を上げ一言「いいよ」と言った。
若草色の双眸には、涙の膜がうっすら張ったままだというのに、わざわざ俺の汚れた手を彼の頬に添えた。

「触って、ルルーシュ。僕なら大丈夫。…王の罰は、等しく僕の罰だよ」

無理に微笑むあどけない表情がたまらなくて、彼の頭ごと掻き抱いた。
ごめんごめんと心の中で何万回と繰り返した言葉をまた胸の内で繰り返す。
天人である王は道を誤った時にのみ、その命を落とす。
おそらくこの国の頽廃の終わりが、自分自身の終焉になるだろう。
そしてそれは、きっと遠い日のことではない。
堪えきれなくなった雫が、一粒スザクの首筋に落ちた。
スザクは無邪気を装うように笑い声をたてた。

「ああ、ルルーシュの涙は綺麗だね。すごい…ねえ、わかる?穢れがどんどん浄化されていくんだよ」
「…スザ、ク」
「うん」
「きっと、俺は短命の王になる」
「…うん」

王と麒麟はどんなに深く結びついていても、溶けて混じるわけではない。
王が死んでも、麒麟は生きられる。
そして、次の王を探すのだ。そうすれば国も生きられる。

「約束だ。俺はおまえに十二国中でもっとも美しい国をやろう。…その国で、おまえは生きろ」

決して俺を追ってきてはいけないと、静かに諭す。
否とも応とも言わないまま、スザクは俺の背に腕を回した。
俺のものより余程美しい透明な涙が、胸を冷たく濡らす。
別れの時、きっとスザクは俺の瘴気と血にまみれた亡骸に触れることすら叶わない。
だから抱きしめられるうちに精一杯、誰より愛おしいこのしなやかな獣を、強く強く抱いていよう。

- fin -

2013/11/22

拍手その10。