暴食女


 

人間の三大欲求。
すでにヒトを辞めた私にとっては関係のないことだ。
けれども私は美味に至福を感じる。
永らえる命をもってしての一番の責め苦は、そう、空腹。





























「何故貴様はピザばかりを食べる」

「美味しいからに決まっているだろう?そんなこともわからないのか」

「食事にはバランスが必要だ。せめて他に食べたいものはないのか?」

「…それならあるぞ。だけどそれは食べられないから、私はピザを食べるしかな いんだ」

「謎掛けか?それとも屁理屈か、それは」

「まあ謎掛けだとしておまえに解けるはずもないが。さあ、それは最後の一切れ だ。返せ」

「…まったく」









薄っぺらな虚勢。
お綺麗な本心。
根底にある仄かな願い。
隠しきれない微笑。




そんなんじゃ足りない。
晒けだせ、憤怒を。
暴きたてろ、悲哀を。
叩きつけろ、嫉妬を。
そして流せ、甘い甘い涙を。
もっともっと、私に食べさせろ。
舌が痺れふほど、それらをよこせ。




怒りに握り締めた細い指は前菜に。
スープは零れ落ちた透明な涙。
メインは胸の内を抉って開いて。
罪にまみれた心臓を、呪われた血で美味しく味付けて。
デザートには紅く熟れた眼球を。
私の目の前の皿に美しく盛りつけろ。









おまえの背負うべき咎も、秘密も。
おまえごとすべて、食べてしまうから。

- fin -

2008/10/7

お題配布元:ユグドラシル様