沁々三十題



 01. 僕に言えることは、ひとつしかないから
 02. きらきらのお星様に耐えられない
 03. だから、ぼくは泣くのです。
 04. 後ろを振り向く勇気が無かっただけ
 05. 覆い、隠し、抱き締める
 06. 帰ってくるまで、起きてるからね
 07. 貴方を奪いに参りました
 08. どうしようもない大人と爪先立ちの子ども
 09. 自覚する前に狂いそうだった
 10. 幼い秘め事、危うい二人
 11. 空が怖くても花が枯れても、僕は歩き続けるだろう
 12. 深海の月と優しい謡唄
 13. 此の心地良さを手放すなど、もう、
 14. ひとりで目を瞑らないで
 15. ぐるり巡った想いの末路は、
 16. あの日も綺麗に晴れていた。
 17. 君が居なくなって、これで何度目の朝だろう
 18. あなたの長いゆびがすき
 19. 欲しいものを手に入れたいだけ
 20. 太陽がオレをお呼びだ
 21. 其の名はあまりにも神聖で
 22. 強く惹かれたのはそれが罪だと知っていたから?
 23. 触れられない温度を求めていた
 24. 立てられた爪さえいとしい
 25. 隣に並んでいたかった
 26. あなたの答え、あなたが答え
 27. 伸ばした手が空を切るのを、恐れていた。
 28. 奇跡からの逃走
 29. どうせなら愛してると叫べば良い
 30. きみの世界を見てみたいんだよ



                                    ≫ 配布元:群青三メートル手前

























 01. 僕に言えることは、ひとつしかないから  【スザク】 

悪魔の証明の理論を教えてくれたのは、確か彼だった。
悪魔は信じている限りきっといる。
スザクの望む姿で、きっと。
だから何度でも繰り返そう。
信じてる信じてる、と。
呪いじみた言葉は、部屋の隅に溶けて消えた。




 02. きらきらのお星様に耐えられない  【ルルーシュ】

夜の雑踏を抜けるように歩いた。
目に痛い程のネオンが、今は心地良く感じられる。
昔教えられた民謡をふと口ずさんだ。
馴染みのないメロディに人が怪訝な顔をして通り過ぎてゆくのに、ルルーシュは少しだけ笑った。




 03. だから、ぼくは泣くのです。  【クロヴィス】

油絵の具の匂いを、クロヴィスの母は厭っていたけれど、そんなことに構わず絵筆を握り続けた。
会いたい、と呟いたのは描いた絵を、夢を、優しいと微笑んでくれた弟に向けて。
ありがとうと、僕はまだ伝えていない。




 04. 後ろを振り向く勇気が無かっただけ  【シャーリー・スザク・ルル ーシュ】

冷たい人よね、と言った彼女の言葉にわずかに苦笑する。
ルルーシュ君、と呼ばれた時の酷く悲しそうな顔を知るのは、あの時正面にいたスザクだけだった。
この場を去る強張った背中を、スザクはそっと目で追った。




 05. 覆い、隠し、抱き締める  【ユーフェミア・スザク】

彼女のそれは夢物語だと知っていた。
「ねえ私、貴方となら綺麗な恋が出来ると思うの」
「僕もそう思うよ。…でも」
「でも?」
「綺麗なままの恋情は、本当に恋なのかな?」
それでも、本当は僕もただただ綺麗なだけの流れ星が欲しかった。




 06. 帰ってくるまで、起きてるからね  【写真部】

「確かにここの出窓は気持ち良いんだが…」
溜息をついたくらいでは、出窓に凭れて寝息を立てる彼は目を覚まさない。
陽だまりにあたたまった癖毛を撫でながら、部室の合鍵をもう一本作ろうかと、ルルーシュは思案した。




 07. 貴方を奪いに参りました  【スザルル】

「世界の果て?そんなもの存在するわけがないだろう。
おまえはとんだロマンチストらしいな。仮にあったとして、そんなところまで付き合う義理はない。
それでも俺が欲しいなら、有無を言わさず攫ってみせろ。世界の終わりで待っていてやる」




 08. どうしようもない大人と爪先立ちの子ども  【シュナイゼル・ルル ーシュ】

「君が勝ったら、どんな望みも叶えてあげよう」
「…勝たせる気なんてないくせに」
「それでも君は挑むだろう?」
「挑みます」
「だから私は何度でも誓うよ」
「何の為に?」
「おや、誓いは破る為にあるのだろう?」




 09. 自覚する前に狂いそうだった  【スザルル】

おまえの傍にいたくない、と彼は泣きながら言った。
傍にいるのは苦しくて、悲しくて、つらいのだと。
僕のシャツの胸の染みがどんどん広がって、冷たくなってきた。
こんな愛を告白されて、一体どうして手離せよう。




 10. 幼い秘め事、危うい二人  【幼少スザルル】

内緒だよ、と背伸びしてくちづけた頬は日に焼けて熱かった。
内緒だから、と受けたキスは、拙くて荒々しくて、馬鹿みたい優しいからに泣きそうになった。
内緒だよ、内緒だよ。
人に言うくらいなら、僕の事忘れてね。




 11. 空が怖くても花が枯れても、僕は歩き続けるだろう  【スザク】

泣いて、泣いて、声も枯れたころ、ふと空を見上げた。
あまりの美しさに、涙は止まってしまった。
いつも、君を見ていたような気持ちで空を見たんだ。
蒼くて、空はとんでもなく綺麗だった。
おかしくて、笑ってしまった。
ねえ、君がいなくても、空は美しくて花は愛らしいんだ。
ああ、なんだかすごくお腹が減ったな。




 12. 深海の月と優しい謡唄い  【沙世子】

世界が残酷だと信じられたなら、どれだけ幸せだっただろう。
無垢なその手を、少女が目を覚まさないようにそっと握った。
まるで、祈りを捧げるように敬虔に。
世界が何より残酷だったのは、こんな清らかな存在を私に教えたことだ。




 13. 此の心地良さを手放すなど、もう、  【『PM5:10』不眠症 ルルーシュ】

いつの間にか、ほとんど使われることのなくなっていた寝具。
それが今では、自分以外の人間の重みで深く沈んでいる。
あたたかそうな体温の隣に、そっと冷え切った肢体を潜り込ませた。
乾いた目を瞑り、肺に彼の匂いを満たす。
ああ、と呆れたように一人小さく笑う。
今なら、呆気ないほど簡単に眠れるような気がした。




 14. ひとりで目を瞑らないで  【スザルル】

嫌だ、と言って、怖い、と泣いた。
「おまえに求められるなら、それだけで構わないから」
彼の望む通り、スザクは痛みが残る程に強くルルーシュの鎖骨に噛みついた。
途端こぼれた、安堵によく似た吐息が悲しかった。




 15. ぐるり巡った想いの末路は、  【スザルル】

「もっと欲しがって」
真摯な瞳は、真摯である程より残酷だった。
嫌だ、と首を振った時の傷ついた彼の常盤だけが満たしてくれる。
けれど、とルルーシュは俯いた。
本当は欲しがる間もないくらい、奪ってほしいのに。




 16. あの日も綺麗に晴れていた。  【ランペルージ兄妹】

私は星座に纏わる物語を沢山知っている。
すべて兄が教えてくれたのだ。
いつか星の位置も教えてあげるから、と。
私の手を握って、そう言った。
兄の声が少しだけ震えていたのには気付かない振りをして、私は頷いた。




 17. 君が居なくなって、これで何度目の朝だろう  【ラウンズスザク】

スザクの朝は昔から早い。
顔を洗って、歯を磨く。
いつもと同じ手順がただ繰り返される。
変わったことなんて何もない。
でもいつからか、着替える時は無意識に目をそらすようになった。
もう痛まない、脇腹の傷から。




 18. あなたの長いゆびがすき  【先生と僕シリーズ】

「先生、手、貸してください」
「うん?」
「…やっぱり大きい、ですね」

翳された手のひらに、ルルーシュはそっと自分のそれを重ねてみる。
日に焼けた象牙のような彼のその肌が、ルルーシュは好きだった。
スザクは、君が僕に追いつくなんてすぐだよ、なんて笑ったけれど。

(違うよ先生。追いつくと言うなら、それは先生の方だ)

関節一つ違う指の長さより、あまりにかけ離れている淡い想いが、ちくりと苦くルルーシュの胸を刺した。




 19. 欲しいものを手に入れたいだけ  【ルルーシュ+ナナリー】

「あら。お兄様怪我をしていらっしゃいます?」
「違うよナナリー。さっき料理をした時、食材の血がついてしまったみたいなんだ」
「まあ、そうでしたか」
「…ナナリーに笑ってほしくて、少しだけ頑張りすぎたかな」




 20. 太陽がオレをお呼びだ  【スザルル】

「春風より俺を選ぶなんて、酔狂な旅人だ」
「そうかな?僕は優しくされるより、誰かに奪って欲しいから…いっそ焼き殺して欲しいんだよ」
「おまえが望むなら、この腕で」
「うん。そして君が望むなら、僕をあげる」




 21. 其の名はあまりにも神聖で  【スザク】

世界が怖くて、悲しくて、ひとりきりだと感じては、こどものように泣きじゃくりたくなる瞬間が、僕にだってあった。
そんな時、ただひとつの言葉を呟いては、胸に押し当てていた。
その欠片が、僕の悲しみを吸い込んでくれる気がしたんだ。

「るるーしゅ、」

だけど、君の名はもう呼ばない。
呼ばないよ。

(もう、悲しい時になんて)

君の名前を呼ぶのは、

「ルルーシュ、ルルーシュ、ルルーシュ」

愛してるって言うかわりに、喉が枯れるほどに叫ぶんだ。




 22. 強く惹かれたのはそれが罪だと知っていたから?  【ユフィ・ナナ リー→ルルーシュ】

「お兄様、何かお話を聞かせて下さい」
「ロマンチックなのが良いわ」
彼は微笑んで、お姫様と騎士の話を聞かせてくれた。
可愛らしく耳を澄ませながら、けれど少女らが本当に求めていたのは、禁断の恋のストーリー。




 23. 触れられない温度を求めていた  【C.C.+ルルーシュ】

うずくまって眠る彼の隣に腰を下ろした。
苛つきながらも前髪を梳いてやる。
何故、彼の不調に誰も気付いてやらないのだろう。
「同族嫌悪、か」
助けを求める事を知らない彼を抱きしめ、彼女もまた、眠りに落ちた。




 24. 立てられた爪さえいとしい  【スザルル+アーサー】

「そんなに僕が嫌い?でも、僕は君が好きだよ。どんなに咬まれても、どんなに嫌われてもね」

にゃぁごと鳴いて逃走したアーサーを追って、スザクは中庭へ出た。
残されたのは、スザクと喧嘩中だったルルーシュ一人。




 25. 隣に並んでいたかった   【英雄と悪逆皇帝】

「君がお姫様だったら良かった。 お姫様なら、君を泡になんてさせないし、硝子の靴を落とすより先に抱きしめて、
月にも帰さない。塔に閉じ込められていたら、僕が空の飛び方を教えてあげるよ。
それから君がお姫様なら、僕のキスで、もう一度生きるんだ。
僕と一緒に。ずっときっと、幸せに。…君が、お姫様なら、良かったのに」

「スザク。生憎、俺は悪逆皇帝だ。…ただし愛した英雄に殺される幸せの、な」




 26. あなたの答え、あなたが答え  【コーネリア・ギルフォード】

「私は自分より弱い騎士など要らない」

主は毅然と言い放つ。

「けれど、私より優しいおまえが、私には必要だ」

悲しい微笑が、夜明けの薄紫に輝いた。
騎士は膝を折り誓う。

「…貴方の望むものを、私は守りましょう」




 27. 伸ばした手が空を切るのを、恐れていた。  【スザ←ルル】

ただ、きつく握るだけ。
「僕、もう戻るね」
「ああ」
媚びるように手を振ることも、強請るように背中に爪を立てることも、できはしない。
「じゃあ、また明日」
「怪我、するなよ」
行き場をなくした、哀れなこの手は。




 28. 奇跡からの逃走   【スザルル】

抗わない唇に重なる、寸前。
「どうして逃げないの?」
「今更だろう?キスなんて。ふん、怖がりめ。躊躇うくらいなら、はじめからやるな」
ルルーシュは動けなくなった僕の襟を乱暴に掴み、噛みつくようなキスをした。




 29. どうせなら愛してると叫べば良い   【スザルル】

「僕は僕が要らないから、君のものになりたい」
「捨てられたものに、興味はない」
「廃品だけど一応使えるよ?」
「そんなもの要らない。俺が欲しいのは、誇りと自尊心を持ったおまえだけだ」
「…すごい殺し文句」




 30. きみの世界を見てみたいんだよ  【社内恋愛のススメ】

マナーモードにしていた携帯が震える。
積み上げた資料の合間を縫って、ルルーシュは携帯を拾い上げた。
メールの着信をしつこく知らせる。
相手は、まだ外回りのから帰らない同僚からだ。

『また資料室に閉じこもってる?まあ、それが君の仕事だから仕方ないよね。
でも、いま空がすごく綺麗なんだよ』

添付ファイルを開くと、燃えるような夕焼けが、小さな画面いっぱいに出力された。
けれど、資料室のカーテンは開けずにいる。
彼の見たものが、自分にとって唯一の世界への窓であってほしかったのだ。