少年Lの憂鬱


先生と僕2

ああ、それでもやっぱり。
いつもの笑顔のあなたが大好きなんです。

















































自習を始めてから五十分。
あと十分すれば、休憩を挟んで自由時間になる。
今日は後半の一時間をどう使おうか。

本当は楽しく雑談するだけでも、自分は充分だけれど。
いつものようにミステリ談議にするなら、何が良いだろう。
スザク先生が好むのは血なまぐさくない、いっそ死体すら出ないようなミステリーだ。
まだ推薦していない本も多くあるが、怖がりのスザクにあえてドロドロに妖しく 震え上がるようなストーリーの 本や著者を紹介をして、思いきり恐がらせてみるのも愉しいかもしれない。
ちらりと先生を窺うと、自分が勧めた本を静かに読んでいた。

「こーら、集中してないよルルーシュ」

不意に顔をあげた先生は僕の止まったままのシャーペンに気付くと、コツンと軽く指の節で額を小突いた。

「…別に勉強サボってたわけじゃないですよ」

「まあルルーシュは賢いから、確かにそんなに根を詰める必要はないかもね」

むう、と頬を膨らませて不満をあらわすと、先生はくすりとやわらかく笑った。
その優しげな表情が好きで、ついじっと眺めてしまう。
もう長いことこうしてこの人を見詰めてきたが、その意味には一向に気付いてくれない。
ただ、あと十分残っている勉強時間を放棄したのは察したのか、先生は読んでいた文庫本を閉じた。

「じゃあルルーシュ、今日はいつもと違う勉強してみる?」

「いつもと違う、ですか?」

「うん」

先生は人好きのする幼げな表情でにっこり笑った。
前からせがんでいた大学の講義内容を教えてくれるのだろうか。
わずかに心を浮き立たせると、普段より深く獣めいた翡翠色の瞳に捕らわれた。

「え、」

それを疑問に思う間もなく、僕は椅子から抱え上げられうしろのベッドに下ろされる。
けれどそこに乱暴さは微塵もない。
優しく、それこそ壊れ物を扱うような先生の仕草と行動のちぐはぐさに戸惑う。

「…せ、先生?」

ベッドに投げ出したままの己の肢体に跨るように、彼はベッドに乗り上げた。
ギシ、と二人分の体重を受けたベッドが素直に鳴く。

「…ごめんルルーシュ、僕、もう我慢出来ないよ…っ、」

「せんせ、い…」

互いの顔が近づくとスザクの熱い吐息が首にかかり、彼が興奮していることを知る。
鼻と鼻がぶつかりそうになった時、そっと唇を塞がれた。
初めての感触に戸惑うより、熱い、とそれだけが僕の思考を支配した。
きつく閉じたままの下唇を、絞るように吸われる。

「ん、」

思わず漏れた甘い声音にはっとして、精一杯先生の胸を突き放した。

「だ、駄目です…っ、居間には、母さんとナナリーが…!」

喋ると、先生の唾液で濡れた唇がひやりとした。
触れ合っていた時は熱いほどにあたたかかったのに、それが少し寂しい。
先生はくす、と笑うと、大丈夫だよと、耳元で低い声で囁いた。

「二人とも用事があるんだって。さっきトイレに行ったとき『留守をお願いしますね』ってマリアンヌさんに言 われたんだ。…ほら、二人っきり、だよ」

「そんな…」

さっと青褪めると、先ほど先生を突き放した両手首を掴まれた。
そのまま押し倒され、両の手は抵抗出来ないよう顔の横あたりで強く押さえつけられた。
逆光になった先生の顔が、苦しそうに歪む。

「僕はずっと君が好きだったんだよ。だけど君は全然気付いてくれなかったよね?…ねえ、ルルーシュは僕が嫌 い?」

「き、嫌いなんかじゃ…」

「なら、…ね?」

「スザク、先生…」

好きだという言葉が、耳に残る。
泣きそうな声だけは、いつもの先生と変わらず、世界中の誰の声より耳に心地良い。
迫る唇を、今度は避けることなく受け止めた。
けれど、優しく触れただけかと思っていたそれが、角度を変えて僕の唇を割り開いた。
上顎と歯列をぞろりと舌らしいものでなぞられて、ふるりと総毛立つ。

「んん、ふ、ぁあっ」

怯えて逃げる舌すら器用に絡め取られ、抗うこともかなわない。
びくびくと耐えるように震えていた両手はいつの間にか自由になり、左手は手首を掴んでいた先生の左手に指を 強く絡めて握られていた。
何故だかひどく安心して、その手をぎゅっと握りかえした。
次第に苦しくなる息を宥めるように、先生は僕の額や前髪、熱くなる頬、無防備な首筋をめちゃくちゃに愛撫す る。

「んあぁ…っ、ん。…ふえ」

「…可愛い、ルルーシュ」

先生に解放される頃には、僕は苦しさと先生の熱に浮かされ、せわしく肩で息をしていた。
うっすらと滲んだ涙のせいで、先生ごと視界がぼやけてしまう。

「気持ち良かった?」

   っ!し、しら、ないっ!…!」

機嫌良さそうに、先生が大人ぶって言うものだから、少し腹立たしくなってぷいっと視線を外した。

「本当?ここ、もうこんなだよ?」

「やあぁん!」

先生の手が、唐突に僕の股間を撫でる。
緩く反応していたそれを、形を確かめるように布越しに揉みこまれた。
それだけで、自慰とは比べものにならないほどの吐精感に襲われる。

「せ、んせっ、いや、あぁあ」

「どうしてこんなになっちゃうのかな?言わなきゃこのままだからね」

「い、じわる…!!」

「嫌なら気持ち良いって言ってごらん」

聞いたこともないくらい冷たく言い放つと、先生は僕の下着ごとズボンを脱がせてしまう。

「ルルーシュのは、ここもすごく可愛いね」

「ふぁ、やだ見ないでせんせぇ…っ、」

僕の局部を、先生がじっと見る。
羞恥でいまにも死にそうだ。
とうとう泣き声を上げ始めた僕に、先生は触れるだけのキスをくれた。
穏やかな翡翠がとろけそうに微笑むと、じんわり胸が熱を帯びる。
それだけで、すべて許せてしまう気がした。

「ルルーシュ、大好き」

「あ…先生、僕も先生が、」

続きを口にする前に、先生は自分のジーパンを寛げると、僕の腰を掴んだ。
ちらりと見えた先生の雄はとても立派で、質量を思い浮かべただけで興奮してしまう。
ごくりと喉が鳴る。

「い、やあぁああっ」

慣らしもしていない排泄器に性器を突き入れられた。
引き裂かれたはずだが、何故か痛みは感じない。
ただ信じられないほどの快楽に、僕は甘く悲鳴を上げて達した。
自分の中が先生のものでいっぱいだということが幸せで。

      ああ、まるで夢のようだ、と。




(………夢?)

















































がばりと掛け布団を剥いで、僕は勢いよく上半身を起こした。
時計は6時を指していて、窓の外は明るい。朝だ。
当然、スザク先生もいない。
だが、下半身が悲しいくらい冷たい。
現実を事実と確認するまで、たっぷり十秒を必要とした。

「……さいあく」

両手に顔をうずめて、万感の思いを込めてそう呟く。




あんなはしたない夢を見るなんて。
ナナリーや母さんに隠れて下着を洗濯しなくちゃいけないなんて。
思っただけで泣きたくなる。
だけど何より最悪なのは。

「…先生のばか。にぶちん」

あんなに毎日誘惑してるのに、ちっとも気付いてくれない先生だ。
夢のように、早く早く僕を奪ってよ。

- fin -

2008/12/19

先生に襲われたいルルーシュ少年