開幕レッドスター


COLORS

一緒に見たいと、そう思った。
きっと、それが、始まりの。

















































夜中、秘密基地へ行くために部屋を抜け出して見上げた星空は、 いつも滲むような色だった。
ふと思い出したのは、それが隣に座る彼の瞳によく似ている気がしたから。


「なあルルーシュ、光が変わる赤い星って知ってるか?」

「それはどの時期に見える」

「大体いつでも」

「方向は?」

「北」

「…それなら、多分ケフェウス座のガーネットスターだろう。日本名で言う柘榴石 星だな」



彼は本から目を話さないまま、俺の問いにすらすら答えていく。
ついこの間まで、秘密基地は俺だけのものだった。
一人きりの部屋の広さに耐えきれなくなった夜、埃だらけのそこだけが居場所だ ったから。
秘密基地を奪ったのは、ブリタニアの皇子。


「ガーネットスターは変光星で、二年くらいの周期で光量が変化する」

「へぇ」

「ケェフェウス座の細長い崩れた5角形の底辺から、5角形の外側へ少しだけはみ出した位置にあるんだが。
スザクはケフェウス座は判るか?」

「ううん。聞いたこともない」

「アンドロメダとカシオペアは?」

「それは知ってる!ペルセウスの話だっ」

「そう。そのアンドロメダの父で、カシオペアの夫がケフェウスになる。     …神話でも目立たないが、星座も目立たない王様だよ」



















そいつはやたらとものを知っていて。
それに頭の回転も無駄に早くて。
笑うとちょっと怖いくらい綺麗で。
…悔しいことに、俺よりずっと背が高い。
そして、そいつはブリタニアから日本への人質だった。



















「ふうん。ずっと気になってたんだ。あの赤い星」

「…おまえ、肉眼で見えたのか?」

「え、見えるだろ。普通」

「いや、あれは四等星で暗い星だから、色まで見るのは難しいはずだが…」

「そうなのか?俺はいつも見てたから普通だと思ってた」

「目が良いんだな、スザクは」



ルルーシュは読んでいた本からようやく顔をあげる。
驚いたように紫の瞳を丸くする仕草は、年上のくせしてやたらと可愛い。

俺の秘密基地だった土蔵の近くの木陰。
そこがルルーシュのお気に入りらしくて、仕事の合間によくここで本を読んでいた。
そろそろ陽が落ちる時間だから、もう読書も終わるだろう。

「ならさ、一緒に見よう!えっと、柘榴石星、だっけ?」

ブリタニアなんて大嫌いだ。
でも、ルルーシュは違う。
その矛盾の意味を、俺は知らない。
ただ、もっとずっと傍にいたくて、俺はそう言った。

それに、ルルーシュに見せたかった。
あの赤すぎて、紫に見えるくらい仄かに灯るあの星を。





















だって本当に綺麗だから。
だって本当に好きな星だから。



















けれど、ルルーシュは微かに眉根を寄せた。
その憂いを帯びた横顔に、途端苦しくなるのは、どうして?
































「悪いな。      …夜は、会えない。」


少しだけ寂しそうに笑ったルルーシュの頭上で、遠くの一番星が赤く煌めいていた。

- fin -

2007/9/29

プロローグ。
恋なんかより、もっと尊い何かの。