クラレット・キッス


COLORS 掌編

あかくあかく、誘うそれは。

















































す、と撫でられ、その指先にぞくりとした。

「唇、荒れているな」

「こんなの、舐めとけば平気だって」

「馬鹿…。唾液だと、余計乾燥するんだ。クリームは持ってい ないのか?」

「そんな女々しいもの、誰がつけるか!」

「女々しい…って。差別用語だぞ、それ」

ルルーシュはあきれたように方をすくめてから、身を捩って引 き出しを漁る。
どうやらこいつはリップクリームの類を持っているらしい。
そういえば、ルルーシュの唇がかさついているところなど見た ことがない気がする。
自然と目がその紅く弧を描く口唇を追った。

決して肉厚ではないのに艶めいていて、熟れたように赤い。
白い面立ちのなか、あまりにもきりりと引かれた紅は際立って いて、
見つめていると、どうしてだか胸がどきどきしてくる。

「ほら、あった。つけとけよ、スザク」

「これ、ルルーシュのか?」

「ああ、そうだが?」

手渡される小さな筒を受け取りながら、 自分の所有物をこともなげに寄越す相手になんだか腹がたった。
俺ばっかりが意識してるみたいで、なんだかとてつもなく格好悪い。

「つけないのか?」

黙ったままリップクリームを握りしめていると、 ルルーシュが不思議そうに顔を覗き込んできた。
そしてもう一度、人差し指の第一関節を、俺の唇に這わせる。

がさがさと荒れて硬くなった唇が、なんだかこの細い指を傷つ けそうでひやひやしたけど。
当のルルーシュが気にする様子はなく、ただ一言「そうか」と 呟いて、俺の手にあったリップクリームをすっと取りあげた。




「あ、」




だって、こいつのに触れたものなんて、どうしたって躊躇うに決まってる。
だけどからっぽになった手がさみしい、だなんてことも言えずに下を向いて押し黙っていると、 ルルーシュはからかうような調子でリップクリームのキャップを外す。

「だけど、荒れてたら痛いだろう?」

そのまま自分の唇へ。
透明の膜が、べたべたとルルーシュの唇を覆っていく。

「べ、別に痛くなんて…」

ない。
自棄になってそう言い返そうとしたらみなまで言わせず、 むに、と上唇と下唇をいっぺんにつままれた。
ルルーシュの、クリームでてらてらと光る唇を微笑の形にして くすくす笑うと、俺の顎を持ち上げて、







































「俺が、だよ」







































そのまま唇を俺のものに重ねた。

- fin -

2007/12/18