宣誓ジョンブリアン


COLORS

追いかけたのは、愛でも恋でもなかった。
だけど、私はいつだってあなたを求めていたの。
私の、ただひとつのの太陽を。

















































もう遠いようにも、まだ近しいままのようにも思える七年前。
マリアンヌ様が暗殺された。いまだ犯人は掴めない。
あの事件を境にナナリーは目と脚の力を失って、 ルルーシュ第二皇子のシュナイゼルの庇護を得るため、自ら膝を屈してくだったのだ。
それは父を、国を、母を奪った誰かを憎みながら、それでも妹を守るため にルルーシュは兄に自分を売ったも同然。

マリアンヌ様を守れず。
ナナリーに癒えない傷を負わせ。
幼くも誇かったルルーシュに膝を折らせたのは、他でもないアッシュフォード家だ。




守れなかった。
守れなかった。
守れなかった。




そこに言い訳なんてない。
私は自分の無力さに歯を食いしばって唸りながら泣いた。
もう二度と失ってなるものかと。
もう二度と奪わせてなるものかと。
涙でぐしゃぐしゃになりながら一人誓った。

けれど本当に泣きたかったのは、一度も涙を見せなかったルルーシュで。
彼は何より大切だった人を奪われたあとも、守護者である兄らに誇りを奪われ続けたの だから。

それでも彼は自分で力を求めて生きた。
シュナイゼルの口添えがあったとはいえ、十代半ばで政にも参加してきた。
そしてエリア5の支配制度において彼が提唱した新しい案が大変な成果をあげた。
それによってその才覚を叩きつけるように鮮やかに周囲に認めさせ、今では"黒の皇子"の異名で通るほどに。





しかしルルーシュは突然、たったひとり身ひとつで東端の島国の日本へ送られる ことになってしまったという。
名目こそ外交だが、日本の地下資源での争いが進む現状から考えて、 ルルーシュはブリタニアからの密偵であり、どのような処遇を受けるかも解らない人質なのだ。
どうか私だけでも一緒に連れていって欲しいと、それだけが私の存在意義なのだと、必死にルルーシュに縋った。
曖昧な笑顔で拒絶されたとき、どれだけの絶望が私を襲ったのか、ルルーシュで すら知るまい。
我武者羅に伸ばした手を、守りたいその人に切り捨てられたのだから。
だけどルルーシュは、私に小さなヒントを残して日本へと飛んでしまった。






私は最後の最後まで、ルルーシュを見送るために泣き腫らした目で彼の背中を見つめていた。
襟の高い服を好む彼にしては珍しく、その日は大きく首もとの開くシャツを着用しており、 所々に赤い鬱血を見つける。
情事の印はすぐにルルーシュの庇護者であるシュナイゼルのものだとすぐに知れた。

彼がナナリーを守るためにその躯を兄に明け渡していることはとうに知っていたから。
アッシュフォードの罪の証である所有印に思わず目を逸らしたとき、そこにヒントを見つけたの だ。

ぴんと、頭の中で絃を弾く感触。
そう、シュナイゼルだ。
ルルーシュが日本に行くのは彼の考えがあってのことに違いない。
すでに皇帝への発言権が認められているシュナイゼルにとって、ご執 心の弟を自分のもとに留めるのは簡単なはずだから。
それを、あえて行かせた。

その意図は私には判らないし関係ない。
ただ一人放り出されたルルーシュと、 ブリタニアには不要なはずなのにシュナイゼルのもとに残されたナナリー。
彼女がルルーシュに対する人質なら、彼はどんな条件でも日本へ行っただろう。
そして私に黙していた意味がそこにあるなら『決してシュナイゼルに気付かれるな』と いうこと。
つまりシュナイゼルに知れれば私にとっての危険があると。

それにようやく気が付いて目を見開いて立ち尽くした。
見えなくなりそうな背中にどうしようもない焦りを感じる。
早く、早くルルーシュに何か言わなければと、手を伸ばしかけた時、彼が振り返った。





























待っていて。





























待っていて、と。彼だけに伝わるように何度も口を動かす。
そのまま背中は消えたけれど、刹那捉えた彼の瞳は絶対に、忘れない。

ずっと縋っていたのは、私じゃなかった。
誰も巻き込めなくて一人すべてを背負った王子様だった。
最後の不安に揺れた瞳。
あなたがくれたのはヒントじゃなかったのね?
きっと最初で最後の、私への合図。

思わず私は空港を駆けだして、外へ。
ルルーシュへの見張りが誰もいなくなるまで、ずっと。

見つめるのは東。
私の太陽。
どうか、どうか待っていて。
今はまだ叶わなくても、必ずあなたの力になるために。
あなたを笑わせてあげるために。







































「あなたに会いに行くからっ!!!!」







































青空に叫んだ。
ちょうど盛り向日葵が、いつでも太陽を見つめているように。
私はあなたを追いかけるから。

- fin -

2008/8/2