ジョーカー・ピンク


COLORS

たった数枚のカードしか携えないで、私はあなたに会いにきた。
だけど侮らないで。
最後の一枚は最強手札かもしれないでしょう?

















































「…さてと。土産代わりに私からの話を聞いてもらっても?」

「どうぞ。今日は時間があるので悪い報告から愛の告白まで、すべて聞きますよ」

「よし良く言ったぁ!…愛してるわルルちゃん、お嫁にいらっしゃいっ!!」

「……すみません、やっぱり報告からで」

「うっふふー。ルルちゃんき会えたのが嬉しくってついねー。ごめんごめん」

彼が何を置いても守ろうとしたものがあったように、私もルルーシュを守りたかった。
そのために、こうやって日本に来られるまでは集められるだけの情報をかき集めたのだ。

「まず最初に言っておくと、私が日本に来たのはアッシュフォード家の一部しか知らないわ。 …悪いけどナナちゃんにも言ってない。勿論シュナイゼル殿下にもね」

「賢明だ」

「お褒めに与り恐悦至極。でも家を出る前に会ってきたわ…大丈夫、元気にして いたわよ」

ほっと、ルルーシュが息をつくのが聞こえる。
これですべてに対して張り詰めていた彼が手足を少しは伸ばせることに安堵した。
また、確かにナナリーには何も言ってはいないが、 聡明に育った彼女が私から何を汲み取ったかは判らない。
…ということは、まあ女同士のヒミツということでルルちゃんには内緒にしておく。
大概兄バカなのだ、ルルーシュも。

それから私が提示した情報は大きく分けて三つ。
どれだけ頑張ろうとも、落ちぶれた貴族の小娘に可能なのはここまでだった。

「日本はナンバー的に、テンからトゥエルブの間に収める気ね。 …まあそれくらいはルルちゃんも知ってるか。日本を落としたあとの総督の人選は?」

「聞かされていない。…が、順当なのはクロヴィスあたりか?」

「ビンゴよ。さすがねー」

「ふん。クロヴィス兄上も所詮シュナイゼル兄上の狗だからな」

「じゃ、次。…副総督は通称"黒の皇子"」

「なっ…!俺はすでに皇位継承権すらないんだぞ。兄上は何を考えているんだっ!?」

「んー、私もおかしいと思ってこれは結構調べたわよ? でもコーネリア皇女殿下が内々に了承済みということもあって黙認されてるの。 まあこれが一つ目、日本支配の傀儡陣ね」

「俺も含めてな」

自嘲をこめた笑みは面倒なのでサクサク無視して次へ。

「二つ目。ルルちゃんはシュナイゼル様の目的は聞いてる?」

「いや、俺には日本を籠絡してこいと命令だけだ」

「これはやっぱりサクラダイトが目的と言えるんだけど…第七世代ナイトメアフ レームをシュナイゼル殿下の指揮下で、日本に置くつもりらしいの」

「第七…?KMFはまだ第五世代じゃ…」

「それが三つ目。ブリタニアは日本との戦争に、戦闘を目的とした第六世代KMFを 実践投入するつもりよ」

「…そろそろだと思ってはいたが、とうとうやるのか。…くそっ」

「これでブリタニアに負けはないわ、絶対に。 でもなーんか、それだけじゃないみたいなんだけど掴めなかったの…」

「まあいいさ。その第七フレームというのは?ニュースソースの明示を」

「あ、これは確か。これの責任者がアスブルンド伯爵家で、現在私の婚約者なの よ。メカオタクの変人だけどねー」

「はあぁ!?」

「そうなの!嫌々したお見合いで大当たり引いちゃった!即婚約してきたの。
まあ落ち目のアッシュフォードと見合いっつーんだから、あっちの腹も知れたもん じゃないわね。うふふ」

「…ロイドは変人というより変態だろ。これでミレイと結婚したら怖い夫婦だな」

「あら知ってた?ロイド伯爵」

「ああ、もともとシュナイゼルと付き合いがあったから何度か…」

思いっきり顔をしかめたところを見ると、ルルーシュはどうやらあの変態に相当 気に入られていたのだろう。
可哀想に。
しかしならば、結婚しても案外気は合うかもしれないわね、メカオタク。

「あと、開戦時期は難しいところで、ルルーシュからシュナイゼル殿下への報告 にもよるところが大きいのだけど…。長くても一年以内よ」

「………あと、一年」

一年で日本は焦土に、と伝えれば、一瞬だけ逡巡する色が見えた。
けど、彼があえて言わないなら、私も訊かない。
そして、これで私の手札はすべて捧げた。
それを明かすよう、小さく手をあげる。

「助かった。これらの情報があればなんとかなる。ありがとう、ミレイ」

素直さなんて微塵も持ち合わせない彼が述べた謝辞に、乾いたはずの涙がじわり と出てしまう。
だからもう帰れ、と。
戦争になる時、この場にいないでくれと、優しいモーヴが苦笑する。
けれど私はもう戻らない。

「…私、帰らないわ」

「ミレイ…」

頼むから、と瞳だけで懇願するルルーシュの前にピンクの封筒を置き、中身の一 部を晒す。

「…っ!これは…!?」

「最後の手札はジョーカーよ、ルルーシュ」

今度こそ側で、私はあなたの笑顔を守りたい。
そのためなら少しの反則も構わないの。

「これが欲しければ、私を側に置いて」

「…ッ」

拒絶したらこの封筒は破り捨てるわ、と脅迫。
ルルーシュの目が狼狽えながら封筒と私の目を行き来する。

「ね、ルルちゃん。じゃあ約束するわ。日本にいる間は、自分を守ることを優先 する。怪我もしないわ」

だからお願い。どうかもう一度、側に。
差し出した手は二度目の拒絶に怯え、本当は震えていたけど。
傲慢にすら見えるように精一杯虚勢を張って。
けれど予想に反して、気が付けば私の手はしなやかな彼の手に包まれていた。

「…その約束、必ず守れ。破ったら、針千本だからな」

柔らかな微笑みに、私はやっと居場所を手に入れた。

- fin -

2008/8/2

封筒の中身?
そんなんルルーシュが日本に来て以降撮影の、ナナリーの写真セットに決まってるぢゃないですか。
シスコン限定最強手札!