仰げ尊きコバルトブルー


COLORS

あら…?
あらあらあらあら?
これは大変。緊急事態!緊急事態発生よっ!!

















































「んーと…とりあえず私の一世一代の大勝負は終わったことだし」

「…よく言う。負ける気なんて微塵もなかったくせに」

「んふふー。まあいいじゃなーい。 衣食住きちんと事前に確保してたけどねー。このミレイ様に抜かりはなくってよ」

「心強いことだ」

「それより、私はルルーシュの近況が聴きたいわ」

安心したら現金なことにすっかりお腹が空いてしまって、ルルーシュお勧めの餡 蜜とやらをつつきながら、行儀悪くスプーンで話の先を促した。
ってゆーかコレ美味しい。
慣れない食生活でも日本でならなんとかやっていけそうな気がする。

「近況…って、ゲンブとの閨の話でもしろと?」

途端皮肉るように口端を歪める。
ちくり、とその笑いに胸を突かれるけど、彼の仕事の本質なんてすでにわかっている。
今のままじゃルルーシュを救えないことだって承知。
だけど、知りたいのはそうじゃなくて。

「ううん。日本政府の動きと、…あとなんか楽しいことでも見つけたのかしらー っと思って」

あと一年。
開戦までのモラトリアムに、一瞬だけ躊躇ったように見えたのは、多分気のせい ではない。
ルルーシュの言う通り、こんな仕事はとっとと終えてしまうに限る。
なのに瞳が迷って揺らめいた。
どんなに近くにいようと、実際武力も持たない異国の娘じゃ、実質的にルルーシ ュの力になるのは難しい。
だったら、せめて彼が幸せだと思える箱庭だけは私が守るの。
しかし彼の眉間は不愉快そうにますます皺を深めるばかり。

「…楽しいだなんて。今日だって早く帰らないと……」

夜が来るから、とは言わず、私から目を離して、はたと何かに気付いたような顔 になる。
声にならない音を、三文字、その紅唇が刻んだ。

「…早く帰らないと、ゲンブの息子が怒るんだ」

私から目を逸らしたまま紡がれる言葉。
浮かぶのは隠しきれない優しげな微苦笑。

「枢木首相の息子?えーと、十歳くらいのが一人いたんだったかしら?」

一応徹底的に叩きこんできた対日本の情勢に、そんなことが書いてあった気もする。

「そう。十歳で、…馬鹿なんだ。 ブリタニアからの人質である俺なんかに始終ひっついてきて。喩えるなら犬みたいで」




あら…?




「あ!この店の餡蜜も、そいつに教えてもらったんだ。その時は無理やり連れて 来られて大変だったな…」








あらあらあらあら?









「でも、この餡蜜、美味しいだろう?」









これは大変。









「そいつ、小さいくせに喧嘩や剣術が滅法強くて。でもそのくせすぐに泣いて。 ……本当に」








































緊急事態!
緊急事態発生よっ!!



























































「すごく可愛いんだ」



























































本国にいた頃には信じられないくらいの、優しく綻ぶ微笑。
ふんわり弾むようなやわらかな口調。
うっすらと赤みの差す両頬。
ハートが散っている、だなんて詩的かつ陳腐な表現が似合ってしまうくらい、潤 んで細められたウィスタリアの瞳。
























ああ神様。
私の主は完全に…恋に落ちている模様。

どうやら此処で彼の箱庭を守るのは、いろんな意味で、茨の道のりになりそうだわ!
私は思わず雲一つないコバルトブルーの空を仰いだ。

- fin -

2008/8/2