夢で見たエルフェンバイン


COLORS

置き去りにしてきた作文用紙は、真っ白なまま。
書きたかったのは、大切な人の名前。
書けなかったのは、あやふやな自分の気持ち。

















































ルルーシュが時々どこかへ出掛けていたのは知っていた。
気になって、何度も行き先を問い質そうと思ったけど、帰ってくるといつも少し だけ機嫌の良さそうなルルーシュを見ると、なんとなく聞くのが怖くて、訊けず じまいだった。

だけど、ルルーシュ一人電車に乗せるのは、もっと怖い。
せめて、俺が守ってやれるように傍にいたい。
だから、振り解かれないのを良いことに、家を出てから俺はずっとルルーシュの 手を握っていた。
枢木スザクは日本男児。守ると言った以上、二言はない!
ガタゴトと揺れる電車で、ルルーシュがふと思い出したように首を傾げた。

「そういえばスザク、さっきやっていた課題はやらなくて良かったのか?」

俺は手伝ってやらないぞ、とルルーシュは軽く笑った。
誰に見られるかも知れない電車内で、こんな可愛い顔なんかするから痴漢に遭う んだ!
俺は慌てて、誰かルルーシュを見ている奴がいないか車内を見回した。

「い、良いんだよ!なんか変な作文だったし」

とりあえず、それらしい素振りをした人がいないのを確認して、ほっと息をつい た。

「作文?主題は決まっているのか?」

「ん。"将来の夢"」

作文自体、得意じゃないのに、テーマがよりによって『将来の夢』。
机の前で悩んでも、どうせ今日中には終わらない。

「スザクはなりたいものとか、決まってないのか?」

「う、ん…。次の大会で優勝したい、とか、藤堂先生みたいに強くなりたい、っ ていうのはすごく思うけどさ、それが夢かっていうと…何か、違う気がするんだ 」

「そうだな。確かなものを見つけるのは、とても難しいものかもしれない」

そう言って、ルルーシュの瞳が窓の外の、ずっとずっと遠くへ。
どんなに手を繋いでいても、どこか離れている気がして、握った手に少しだけ力 をこめる。

「…なりたいものなら、あるんだ。でも、それをなんて言えば良いのか    … わからなくて」

形に出来ない想いが、酷くもどかしい。
こんなに強く願うのに。

守りたい。
守りたいんだ、ルルーシュを。

どうしたら、伝わる?
どうしたら、ずっと守ってやれる?

言葉にならない気持ちがはがゆくて、繋いでいない方の手でズボンをくしゃりと 握った。
その時、ふわりと頭に触れる、すでに慣れた感触。
細い指が優しく髪を梳くたび、堪らないくらい、心臓のあたりが熱くて、痛い。

「焦ることはない。 おまえがなりたいと望むなら、きっと叶うさ」

電車に差し込む日溜まりに、ルルーシュの黒髪が淡く光って揺れていた。
それがとても眩しくて、歯を食いしばったまま、俺は目を伏せた。



















ねえ。
大事なものを守れるすべを、どうか教えて。

- fin -

2008/9/20