夢で見たエルフェンバイン


COLORS

電車を降りてルルーシュに連れられていったのは、うちから二つ離れた駅の前にある喫茶店。
ルルーシュは入り口で立ち止まったかと思うと、ごくりと生唾を嚥下したのがわ かった。

「…スザク。店に入る前に三つだけ、約束してくれ」

真剣な様子で、ルルーシュは俺の肩に置いた。
勿論、と間髪入れずに頷き返すと明らかに安心した表情を浮かべていた。

「一つは、今から会うのはブリタニア人だ。 でも、日本に彼女が来ていることは、絶対に誰にも言わないでいて欲しい」

「わかった。言わない」

密会の相手が、女。
…だからずっと聞きたくなんてなかったのに。わずかに動揺はしたけど、それでもしっかりと頷く。

「二つ目。出来たら彼女に優しくしてやってくれ」

      おまえはブリタニアは嫌いだろうが。
そう微かに苦笑するルルーシュに、ぎゅっと胸は痛んだが、約束すると強く請け 負った。

「………最後に、…なんというか、人をからかうのがとても好きな人だから、あ いつの言うことを鵜呑みにするな。というか場合によっては全力で忘れろ。いいな…!」

「わ、わかった」

ルルーシュの中では、後者のが優先順位は一番上らしい。
痛いくらいに肩をつかまれて、思わず返事が上擦ってしまった。
「悪い奴ではないんだが…」と困ったように小さく呟くルルーシュを見て、ちょ っと店に入るのが怖くなったけど、ルルーシュに手を引かれていたので今更逃げ ることは出来なかった。

店の奥にいたその人は、肩にかかる髪を軽く梳きながら本を読んでた。 とても綺麗な人だった。話と違う。
俺は呆然と、つんと鼻の高い横顔を眺めた。
さっきのルルーシュの狼狽っぷりから、もっと変な女だと思ってたのに!
いつも出掛けた日の帰りは上機嫌だったルルーシュを思い出して、血の気が足元 まで一気に落ちるのを感じた。

「悪い。待たせたな」

そんな俺に構うことなどせず、つかつかと彼女のいるテーブルまで近づいていく 。
俺もルルーシュに引かれて躓きそうになりながら歩いた。…ちょっと絶望的な気分で。
ルルーシュの声でようやく気がついたのか、その女は本をパタリと閉じると、唇 を尖らせて勢い良く振り向いた。

「おっそーい!ルルちゃん二十分遅刻!よって今日はルルちゃんの奢りにけって ーい!いっえーい!!………って、あら?」

変人だ。
女性は大和撫子であるべし、と常に思っている俺は、出会い頭のオーバーリアク ションにその場で凍った。
びしーっ、とルルーシュを指をさしたままの女も、俺を見てきょとんと首を傾げ ている。

「…ねえルルちゃん?」

「なんだ」

「なぁに?このちんちくりん」

悪意がないのは、丸く開かれた瞳でわかったが。
とりあえず。
第一印象は最悪だった。

- fin -

2008/9/24