COLORS
よろしくね、と手を差し出したのは彼女の方だった。
「私はミレイ・アッシュフォードよ」
でも、初対面の一言のせいで、俺は目の前の女がいまいち信用出来ずにいた。
結果、握手をする代わりにルルーシュの腕にしがみついたままだった。
「…スザク、だから彼女の言うことは気にするな。気にしたら負けだ」
やたら実感の籠もったルルーシュの説得に、渋々ながら、差し出された手を握っ
た。
ちんちくりん、と言ったあと、この女はルルーシュが何かを言う前にポンと手を
叩いて、「もしかしてスザク君かしら?」と、問い掛けてきたのだ。
俺やルルーシュが答えるより先に、自分で出した解答に納得したのか、向日葵の
ように朗らかに笑って、手を差し伸べてきた。
「…枢木スザク、だ」
敵意もあらわにそっぽ向いたのに、ミレイは至極楽しそうにただ笑った。
何だかとても嫌な予感がした。
「初対面なのに不躾で悪いけど、あなたのことはよーっく知ってるわ!
七月十日生まれ、O型。日本国現首相枢木ゲンブの一人息子。
性格は真面目な割に大雑把で、かなり頑固でちょっと乱暴。
得意な科目は体育。苦手なのはぶっちゃけ体育以外。猫好きだけどよく噛まれて、好きな食べ物はお味噌汁とハンバーグ!……でしょう?」
「…なっ!?」
にんまりと人が悪そうに細まる瞳を見ながら、俺は呆気に取られて二の句が継げ
ない。
ここまで個人情報だだ漏れで、日本は本当に大丈夫なのか。
はたまた目の前の女はエスパーか何かなのかと、俺は目を白黒させた。
「だーって、日本に来てから、ルルーシュは『スザク』のことしか話さないんだ
もの。いい加減耳タコよぅ!」
やや大袈裟な身振りで、ミレイは嘆く素振りをするが、俺はそれどころではない。
ルルーシュの話しの中心が、俺?
歴史も算数も小難しい政治の話しも、ましてや日本語も日本の地理でさえ完璧に
こなし、俺より見識のあるルルーシュが?
驚いてルルーシュを見上げると、まさしく般若のような形相で俺を睨んでいた。
「…いいかスザク。これが忘れるべき事項だ。忘れろ。今聞いたことはすべて忘
れろ…!!」
肩を掴まれて、強く言い聞かせられる。
真っ赤に染まった頬のせいで、つり上がる眦ですらちっとも怖くはなかったけれ
ど。
なんだかとてつもなく恥ずかしいのも。
俺までやたらと顔が熱いのも。
なのに、少しだけ嬉しく思ったのも。
「私は耳タコだけど、あなた達は茹でダコねぇー」とミレイが楽しそうに笑うのも、ルルーシュのせいに違いない。絶対に。
だけど、肩に置かれた彼の手のひらと、胸の奥が痛いくらいに熱いから、『忘れ
る』と約束することは、どうしたって出来そうもなかった。
- fin -
2008/9/24