プランパーゴの涙に約束


FLOWERS

心奪われたあの青さを、ねえ、あなたは覚えている?

















































涼しくなってきた風が、火照った私の体を心地よく冷やした。

「…見つけた」

安堵の息が、思わずほっと漏れる。
探していた少女は、ルリマツリが溢れ咲く茂みで膝を抱えてしゃくりあげていた。

「スザク、迎えに来たよ。一緒に戻ろう?」

顔をあげたスザクの頬は、涙でぐちゃぐちゃだった。
翡翠色の瞳に私だけを映すと、新しい大粒の涙がこぼれ落ちる。

「帰りたく、な、いっ…!」

私は膝をついて、スザクの背中を撫でてやる。

「泣かないで。あなたが泣くと私もすごく悲しいわ」

「…だっ、て」

「ん?」

せわしなく息を継ぐ背を、落ち着かせるように優しく叩く。
走ったて来たせいで乱れた横髪を耳に掛けて、舌っ足らずに紡がれる彼女の言葉を逃すまいと耳を傾ける。

「僕、…僕は要らない子だから。僕がいたら父さんが怒、る」

「そんなことない」

「だって、僕が女だから…!や、役に立たないって!!僕なんて、いない方が良い…っ」

スザクが握ったワンピースの袖が、くしゃりと皺になる。
彼女が顔を押し付けたブラウスは瞬く間に濡れてしまったが、ことさら強くスザクの頭を抱き寄せた。
スザクのふわふわした髪をすきながら、けれど私はスザクの言葉がそう間違っていないことを知っていた。

スザクの父親は、話に聞いていた日本の男性らしい、男尊女卑の激しい男だった。
跡取りに男子がいないことを忌々しく思っているのだと、普段から憚ることなく口にしている。
私が何より悲しいのは、スザクはそんな父親であっても誰よりも尊敬していることだ。

だから彼女は髪を短く切り揃え、決してスカートを穿かず、自分のことを「私」と呼ぶこともない。
なれるはずもない男の子に、スザクはなろうとしているのだ。
馬鹿な子、と私は胸の内で吐き捨てる。




(あなたを大切にしない愚かなものなんて、すべて忘れてしまえば良いのに)




「…役立たずなんかじゃない。スザクは男の子に負けないくらい強いもの。それにどんな女の子より可愛いわ」

「ルルーシュ…っ」

柔い頬を伝う雫を、そっと唇で拭う。
泣きすぎたせいか、そこはひどく熱かった。

「私がスザクを必要としてあげる。ずっとずっと、側にいるから。私があなたを守ってあげるわ。 …お願い、だから自分を要らないなんて言わないで」

スザクを安心させたくて言ったのに、何故だか私まで泣きたくなってしまう。
つられてスザクまで泣いてしまったら本末転倒でしかないのに。
しかしスザクはごしごしと目元を擦り、精一杯笑って見せてくれた。

「ルルーシュ、僕、もっと強くなるよ。強くなって、僕がルルのこと守るから。…ずっと側にいてね」

縋るように私を抱きしめる。
私もきつくきつく抱き返す。
そして「約束だよ」と私たちは何度も何度も囁き合った。




ルリマツリの花びらが、泥にまみれた私のスカートに、はらりと散った。

- fin -

2008/7/5

友愛と愛情と束縛と。
ルリマツリ(プランパーゴ)の花言葉:ひそかな情熱、同情、いつも明るい。