FLOWERS
私の花を探しに来たの。
愛しい愛しい私の花は、今どこで咲いているの?
「エリア11副総督、神聖ブリタニア帝国第3皇女、ルルーシュ・ヴィ・ブリタ
ニア皇女殿下が只今到着なさいましたっ!!」
武官の大音声が、門前に響きわたる。
同時にオーケストラの歓迎の旋律が、荘厳に空気を揺さぶった。
春先の風はまだ少しだけ冷えるようで、迎えられた少女の肩が微かに震えたよう
だった。
腰まである艶やかな黒髪が、さらりと一房流れた。
「待っていたよ、ルルーシュ。久しぶりだね」
「ご機嫌よう、クロヴィス総督。私が参りましたからは、このエリアにますますの繁栄をお約束します」
昔と変わらぬ笑顔で出迎えてくれた義兄のクロヴィスは、ルルーシュの肩にショールを
羽織らせると耳元で「兄さんで構わないよ?」と困ったようにこっそり囁いた。
相変わらずの兄に苦笑して、ルルーシュはとりあえず静かな場所に、と嘆願した。
飛行機酔いと時差ボケの酷いルルーシュにとって、兄による賑やかな歓迎は、実
は結構辛かったのだ。
*
「しかし、よくコーネリア姉上が許して下さったね!」
「それは、まあ粘り勝ちですね。私の」
「そうだなぁ、姉上も大概妹姫たちに弱いから」
クロヴィスが案内したのは、客間の一室だった。
ルルーシュにあてがわれた私室は、ちょうど荷物が運び込まれている最中なのだ
と言う。
「でもエリア11の副総督の肩書きと引き換えに、ナナリーを捕られてしまいま
した…」
「まあ姉上の最後の反抗だったのだろうね。私もまさかルルーシュがナナリーを本国
に置いてくるとは思っていなかったよ」
「…どうしても欲しいものがあったんですよ」
クロヴィスの淹れてくれた紅茶に口づけながら、ルルーシュは窓の外に目をやっ
た。
老樹いっぱいに薄紅の蕾がなっている。
「して、そのナナリーと引き換えにしてでも欲しいものとは何だい?…ま、まさ
か総督の座かい!?」
「まさか。私は兄上を貶める気はありませんよ。でも、欲しいものは秘密です」
可愛らしさを装って人差し指を唇に当てる仕草をすると、クロヴィスはそれ以上
追求はして来なかった。
クロヴィスの単純さに一抹の不安を覚えつつも、嫌いにはなれない兄に頬が弛ん
だ。
「ああ、そういえば。私の就任式は七日後でしたか?」
「そうだよ。それまでは市民に君の名前は伏せておくから、ゆっくり休むと良い
」
その言葉にルルーシュは安心したように笑った。
しかしそれは『お姫様』に相応しい微笑ではなく、挑戦的で艶のある強いものだ
った。
「では兄上。就任式までに私の欲しかったものを探し出し、お目に掛けるとお約
束しましょう」
けれど鮮やかな微笑みは、その日ルルーシュが浮かべたどんな表情より、際立っ
て美しいものだった。
- fin -
2008/9/15