ハロー・チェリーブロッサム


FLOWERS

「この強情っ張り!!」

「ルルーシュの分からず屋っ!!」

スザクに会ったら、まず謝ろうと思っていた。
それから会いたかったと伝えて、優しく抱き締めたかった。
そして叶うなら、スザクに抱き締めて欲しかった。
………だと言うのに、この現状はなんだ。

「石頭!体力馬鹿!!」

「何だよ相変わらずほっそい体して!相変わらず体力ないんでしょ!ルルーシュ のもやしっ子!!ペチャパイーっ!!」

「おまえこそまだ脳味噌まで筋肉なのか!?そんな胸ばっかり大きくして、栄養偏 りすぎだ!!!!!」

ああ、泣きたい。
すごく泣きたい。

しかし悲しいかな、よく回る口は止まることがない。
本国の弁論大会三回連続優勝の実力は伊達じゃないのだと、ルルーシュは自分でも関心する程 だ。
ただ付け加えるとしたら、こんな幼稚な口論は久し振りだった。
ロイドとセシルの両名が、スザクに不敬罪を突き付けることもなく放っておいて くれているのが、せめてもの救いだろう。

「…どうしても駄目なの?」

「駄目だ」

お互い肩で息をしながら睨み合う。
どんなに横道に逸れても論点は見失わない。
スザクを危険な戦場に出すなんて、ルルーシュは死んでも反対だった。
ただ心配なだけなのに、スザクを守りたいだけなのに、どうしてそれが伝わらない?
歯がゆさともどかしさで、じわりと視界が滲んだ。
見ればスザクも同じように、歯を食いしばって泣きそうな顔をしている。

「スザ…」

「…もう、いい」

どうして?
どうしてあなたが泣くの?
傷付いた瞳が悲しくて手を伸ばすと、触れる前に拒絶された。

「…ルルーシュは、あの時約束したことなんて覚えてないんだ」

「ちが、」

「嘘だよ」

軽蔑するように眇められた双眸が、怖かった。
堪えきれなくなった涙が一筋、スザクの日に焼けた頬を滑った。

「それでも、僕は…」

スザクが何かを言い終えるのを遮り、セシルが慌ただしく間に入る。

「た、大変ですルルーシュ副総督っ、先程とは別のナイトメアフレームを装備し たテロリストが暴動を!ポイントがこの地点のすぐ傍です!」

政庁からの救援は間に合いません、とアイスブルーの瞳を揺らした。
後ろではロイドがにまにまと唇を妖しく歪め、こちらを見ていた。
その意図はすぐに知れて、ルルーシュは言葉尻も荒く「ランスロットの出撃は断じて許可しな い!」と言い放った。

「そんなこと言ってもー、今さっきクロヴィス総督から"副総督の安全を優先させ ろ"とのご命令がぁ。…あっはぁ!総督命令じゃぁ従わないと!!!!!」

「…それでも、スザクは駄目だ…っ!」

それでなくても、彼女は私を庇って怪我をしたばかりだ。
それに、スザクのナイトメアフレームの搭乗歴は知らないが、ランスロットの実 践的な操縦は今までなかったはずだ。
そんな危険なことはさせられない。
何より今行かせてしまったら、スザクに同朋殺しをさせることになる。

「…大丈夫です。セシルさん、ランスロットの起動準備お願いします。マニュア ルはちゃんと読んでありますから」

「…わかったわ。ランスロットはトレーラーの後ろに積んであるから、待機して」

「スザク…!」

見れば、巻かれた包帯にはまだ血が滲んでいる。
行かないで、と視線だけで訴えたが、スザクは一度だけきつく目を閉じると、そ の合図を無視した。

「…相手は日本人なんだぞ!?」

「知っているよ」

「なら…っ、」

追いすがるのも虚しく、スザクはトレーラーの屋根にひょいと登った。
そのままランスロットのコックピットに移るつもりだろう。

「ルルーシュ、危ないからトレーラーの中にいてね。大丈夫、僕が守るから」

散々すげなくあしらった癖に、こんな時だけ優しく微笑むのは狡い。
とうとう引き留める言葉を失った時、スザクは一言だけ「それでも、ルルーシュ の敵は僕の敵だから」と小さく呟いた。
傍らで、セシルが指揮官として着々と発艦準備を進めている。

「MEブースト解除。ランスロット…発進!!」

空気すべてを揺るがすようなエンジン音と、ロイドのピンク色の狂喜を肌で感じ る。
くすりと、何一つ思い通りにならない現状に笑いがこぼれた。
約束を忘れたと言うなら、スザクの方だ。
ルルーシュは、一言一句違えずにあの時の約束を諳んじることだって出来るのだから。
騒然としたトレーラーに乗り込み、ゆったりと通信パネルに向かう。
すっと胸いっぱいに空気を吸い込んで、セシルの通信マイクを乱暴に奪った。
空気がぴりりと張り詰める。

「…聞こえるか、スザク」

「ルルーシュ、お願い今は止めないで!」

「うるさい!とにかく私の言うことをよく聞け。いいかスザク、敵先頭のナイトメアを一旦叩け。こちらがこのポイントでナイトメア を所持していることはまだ知られていないはずだ。…左側に廻って一気に奇襲を掛けろ!!」



































          私があなたを守ってあげるわ。



































「い、イエス・ユア・ハイネス!!」

喜色に溢れたスザクの声を、耳に心地良く受けた。

忘れたなんて、言わせない。
私が、スザクを守るんだ。
あの象牙の肌に、傷一つつけてなるものか。

- fin -

2008/10/9