ハロー・チェリーブロッサム


FLOWERS

閃光と謳われたマリアンヌを母に持ち、ブリタニアの魔女の称号を冠するコーネリアに育てられた。
ルルーシュはそれを誇りに今まで生きてきた。
生憎自分でナイトメアフレームを駆ることは不得意だったが、その戦術だけなら 、ブリタニア最強の騎士団ナイトオブラウンズにも引けを取らないだけの実力を培ってきたと胸を張って言える。
計算高いシュナイゼルが直轄の特派をルルーシュ譲渡したのも、それを裏付けるだけの実力を有していると知っているからだ。
なにより、この現状がすべてを証明する。

「八時の方角へ四十メートル後退。そのままヴァリスを撃て。怯んだところをス ラッシュハーケンで薙払え!狙いはすべて脚部だ。少しでも頭があるなら、それ で退却するはずだ。それで敵ナイトメアフレームは一掃出来る」

「イエス・ユア・ハイネス!」

打てば響くスザクの敏捷さに、快感に似た何かがぞくぞくと背中を這う。
背中にロイドとセシルの呆気に取られたような視線を感じるが、今は構っていら れない。
最優先事項は、スザクに同胞を殺させず、いち早く無傷で帰還させることだ。

「…興味ないかと思ったら、ランスロットのマニュアルちゃあんと読んでたんです ねぇ。ありがとぅございまぁすっ、ルルーシュ皇女殿下ぁ!」

「うるさいぞロイド。敵が全員引いたからスザクは戻らせる。…セシル女史、ランスロットの誘導をお願いします」

「は、はい」

盤面はもう見る必要はない。
ルルーシュの命令に寸分違わぬスザクの攻撃で、テロリストの退却は間違いない 。
怪我を負わせたとしても、あれなら軽傷で済む。
スザクが気に病むような事態を引き起こさなかったことに少なからず安堵して、 セシルに通信マイクを譲ってそのままトレーラーを飛び降りた。

荒廃したゲットーの乾いた土がパンプスを白く汚した。
風に当たっても、まだ興奮が引かない。
スザクがデヴァイサーとして秀でていることは、あの僅かな戦闘ですら明らかだ った。
ルルーシュの作戦をこれほど的確に理解し、実行したデヴァイサーは一人だって いなかったのに。
スザクは、まるで息をするような、瞬きをするような、そんな軽やかさでそれを 成した。

激しく胸を打つ鼓動が鳴り止まない。
戦いに身を投げる彼女のことが心配で不安で堪らないのに、身体はその甘美な快 感に、ルルーシュは震えすらしていたのだ。

「…ルルーシュ」

はあ、と熱っぽい吐息を吐き出した時、同じように頬を上気させ恍惚に濡れた瞳 のままランスロットを降りたスザクが、 敬虔な祈りを奉げるような神聖さで、ルルーシュの足元に両膝を折った。
俯いているせいで、そのかんばせが窺えないのがひどく口惜しい気がする。

「約束だよね。僕が君を守るって。ずっと傍にいてくれるって」

「ええ」

「僕を、君の騎士にして、ルルーシュ」

小さな声音で呟いたあと、どんどん沈むように低くなってしまうふわふわの頭に 、つい、くすりと笑ってしまう。
もともとルルーシュはスザクが傍にいてくれるなら、それだけで良かったのだ。
はじめから、手放すつもりなんて毛頭なかった。
しかしどうやらこのお転婆は、どうあってもメイドや文官には向かないらしい。
そんなこと、少し考えればすぐにわかることだったのに。

「…馬鹿だなぁ」

苦笑いでこぼした自嘲に、びくりとスザクの肩が跳ねた。
震える愛しい肩に、一片の薄桃の花びらを見つけて頬が綻んだ。
もう、そんな時期だろうか。
スザクが一番好きだと言っていた、桜の季節。
胸いっぱいに春を吸い込むと、花の香りを、確かに感じた。
春とは、なんて胸躍る季節なのだろう。

「任命式は私の就任式と同時だ。あと三日しかないから、覚悟しなさい」

ようやく上げられた顔は、喜びと驚きと困惑で大きな瞳がこぼれそうに丸くなったいた。
スザクの肩に触れ、そっと花びらを摘みそのまま春風に流す。

もしもスザクがいなければ、たとえ世界中に花が咲き乱れる日がきてもルルーシュは見向きもしなかっただろう。
けれど、この桜の花は、きっと永遠に忘れない。





























ああ、やっと。

やっとやっと、見つけたの。

私の愛しい、たった一輪の、私だけの花。































感極まったスザクにきつく抱きしめられる寸前、ルルーシュの視界は一色に塗りつぶされた。
幸福に眩暈がするほどの、それは鮮やかなオペラ・ピンクの花吹雪。

- fin -

2008/10/15

(私があなたを守ってあげるの)
(だから、あなたは私を守っていてね)