アザレアは、ただ思い知ればいいの


FLOWERS

乾いた地面に、私が雨を降らせよう。
ひとつ残らず、その蕾を咲かせるために。

















































数日の留守で溜まった書類を、手早く整える。
ルルーシュは昨日まで、房総半島の台風で水害に遭った 図書館の整備補佐としての出張だった。
重ねてスザクはランスロットのフロートシステムの最終調整で、こちらに残らざ る得なかった。

つまり二人での仕事は久し振りだ。
それがただの書類整理だとしても、嬉しいことには変わりない。
スザクも同様に寂しいと思ってくれただろうか?
ほのかな期待を込めて、うしろに控える騎士の気配をじっと窺う。
その時、つんと袖を引かれた。

皺になる袖が甘くくすぐったい。
すぐに振り向くのは勿体無く思えて焦らしてみたら、「ルルーシュぅ…」と弱々しい声が聞こえた。

「なんだスザク。仕事中は…」

名前で呼べ、と。
そう言おうとしたころで、背後から力なく抱き締められた。

「スザク?」

「………気持ちわるー…」

「は?」

首筋に当たる彼女の額が熱いと気付いたのと、呻くようにスザクがルルーシュの ドレスに嘔吐したのは、寸分違わず同時だった。









*









汚れたドレスは適当にゴミ箱に放り込んで、ついでにスザクを自分のベッドに無 理矢理寝かしつけた。
子供のように泣きながら愚図る騎士なんて、とてもじゃないが人には見せられな い。

ルルーシュは簡単にシャワーを浴びて汚れを落とすと、普段着の楽なワンピース に着替えるとすぐにベッドに戻った。
スザクは最後まで主人のベッドを奪うことに抵抗していたが、もうその気力もな いらしく、おとなしくベッドで丸くうずくまっていた。
いつも健康的な薔薇色の頬も熟れた唇も、今はただ青ざめていてそれだけで痛ま しい。
広いベッドの真ん中までそっと這い、汗で張り付いた癖毛を指で梳く。

「スザク、大丈夫?」

「…だいじょうぶ。ごめんね、ルルーシュ」

「気にしないで。…ええと、二日目?」

「…うん」

スザクは視線を逸らして小さく頷いた。
つい先程まで、生理痛だと、ただそれだけをルルーシュに伝えるのも、スザクは渋っていた。
まるで罰を受けるのを待つ子供だ。
だれも叱ったりしないのに、女であるハンデをスザクはいまだに怖がってる。
少しだけ悲しくなって、せめて伝えたい情を込めて手を握った。

「いつもこんなに辛いの?薬は?」

「飲んだけど…薬は合わないの。気持ち悪くなっちゃうから」

薬との相性の悪さは今に始まったことではないらしい。
気分が悪くなるのをわかっていて薬を飲んだのは、今日が久し振りに自分 と一緒の公務だったから無理をしたのだろう。
ルルーシュは、生理痛はあまり酷い方ではない。
せいぜい腰が痛む程度で、スザクのように発熱、嘔吐感、立ち上がれないほどの 痛みなど感じたことがなかった。

(まだあなたは、女でいたくないの?)

自らの性を否定するような激しさに、憂いては瞳を伏せる。
そんな悲しいこと、どうか思わないで欲しい。

「…スザク、今日はもうお休みしよう。私もサボる」

「だ、大丈夫だよ!ちゃんと仕事出来るよ、僕」

案の定スザクはすぐにでも仕事に戻ろうとする。
今にも泣きそうな顔で慌てて起き上がろうとした肩を押し返し、柔らかなベッド に戻す。
いつも力じゃ適わないのに、スザクは簡単に押し戻された。
自分でも驚いたのかきょとんと丸くなる瞳が可愛くてルルーシュはくすくすと笑 った。

「だぁめ」

いやいやと首を振るスザクに跨るようにしてその顔を覗き込む。

(ああ、なんて可愛いのだろう)

女であることを恥じる必要なんてない。
大きくて柔らかい乳房も、くびれた腰も、濃い睫毛も。
ケーキを食べる時の幸せそうに頬を押さえる仕草や、高く響く笑い声も、全部がと ても可愛くて仕方ないのに。

「今日は一日私に甘えて我儘を言って。たくさんたくさん甘やかしてあげる」

でも、と渋るスザクの顔を両手で包んで、コツンと額同士をくっつけた。

「これは命令よ。返事は?」

「い、イエス・ユアハイネス…」

恥ずかしいのか嬉しいのか、青白かった顔にほんのりと血色が差した。
さあ、何をして甘やかしてあげようか?

「まずは?何かして欲しいことある?」

「…る、」

「ん?」

「ルルーシュのベッドで寝てたい…」

顔を真っ赤にしてスザクは小さな声で言った。

「うん、良いわ。他には?」

「…あのね」

「うん」

「えっと、…あの、あのね、」

「…うん」

「………ぎゅって、…して欲しい」

それだけ言うと、スザクは布団を頭頂まで引き上げて隠れてしまった。
あまりにささやかな望みたちに、たちまちルルーシュは相好を崩した。









「ええ、あなたのお気に召すまま」

- fin -

2009/3/21

アザレアの花言葉:愛されることを知った喜び