微熱ラメント


PHOTO CLUB

どうして立ち上がることすら許してくれないの?

















































「スザク、おいスザク!大丈夫か?」

「うわ、スザクが倒れたって本当だったんだなっ!」

「う゛ー、ジノと…リヴァル…?」

「具合、まだ悪そうだな。昼何か食べたか?」

ルームメイトのジノが、ぺちぺちとスザクの頬を叩く。
クラスメイトのリヴァルも珍しげにスザクの顔を眺めていた。
ジノとリヴァルがいるということは、もう放課後だろうか。
そういえば朝から何も食べていないが、すっかり忘れていた。

「…お腹、減ってない」

「おいおいおい。マジかよ、風邪すら引いたことのない健康優良児のおまえが!!」

「なあなあスーザークー、こういう時庶民は何食べるんだ?」

「二人ともうるさいー…」

スザクはうつ伏せたまま、頭から枕を被り二人の騒音を防ごうとする。
この二晩というもの泣いて泣いて、朝起きてみると頭どころか全身の関節が熱っ ぽく痛んでいた。
風邪ではないがとても学校に行く気にはなれず、スザクは輝かしい数年間の皆勤 賞に傷をつけることになった。

「とりあえず水枕くらい作りますか」

「あ!それ俺やりたい俺やりたい!!」

「あー後でね。ジノはちょっと食堂行ってお粥作ってもらってきてくんね? 前に風邪引いた日本人庶民が、風邪にはお粥だーって言ってたことがあるし」

と、"庶民"をやたら強調しながら至極ありがたいことを言い、ついでに五月蝿い のも追い払ってくれた。
持つべきものは気の利く友人だとスザクは布団の中で噛み締める。

「…ありがとうリヴァル」

「良いって。どうせジノじゃぁまともな看病出来ないだろ?まあ好奇心旺盛なお 坊ちゃんに、おまえのお粥が半分食べられるのくらいは覚悟しておけよ」

からかうように言って、手際良く作った水枕を頭の下に差し入れられた。
悪い奴じゃないんだけどな、と二人で笑い合った。

「だからまあ、生徒会をサボって俺がこうして馳せ参じた訳ですよ!」

"生徒会"の単語にスザクは勢い良く身を起こした。
すっかり失念していたが、この気の良い友人は生徒会の役員でもあったのだ。
彼と…ルルーシュと、同じ。

「うおっ、どした?」

「あ、あのさ…」

どっどっど、と心臓が鳴る。

「生徒会の副会長って…」

「あ?ルルーシュのこと?」

「か、彼って、女の子とかにモテる?」

「モテるなんてもんじゃねーな。老若男女構わずフェロモン振りまいてんじゃね ーの?あれ」

聞きたい。聞きたくない。
…でも、やっぱり聞きたい。

「彼って、す、好きな人とかいるのかな…?」

視線が泳ぐのをぐっと堪える。
するとリヴァルはニヤニヤと笑ってスザクを見詰めた。

「おまえ、まさか好きだった子ルルーシュに盗られたのか〜?そりゃ学校も休み たくなるよな!」

うんうんと訳知り顔で頷いて、リヴァルは一人納得する。
彼にも何か身につまされるところでもあるのだろうか。
勘違いについては訂正する必要を感じなかったので、そのままにしておいた。

「それで、いるの?いないの?」

「あー、あいつ告白されても受けたことないんだよなぁ、男女問わず。
でも好きな奴がいるって話もないっつーか、そっち方面に興味ないみたい」

つまらなそうに言われた言葉に、スザクは少なからずほっとする。
一昨日、ルルーシュに好きな人がいるのだと感じたことは、どうか自分の勘違い であって欲しいとずっとずっと祈るように思っていた。
もし、スザクの勘違いならまだ望みはあるかもしれない。

「あ、でも」

(………デジャブ、だ)

聞きたくない。
聞きたくない。
聞きたくない。

この先は、聞いてはいけないことだ。
よく回るリヴァルの口を止めたくてスザクは手を伸ばすけれど、ずきずきと鈍痛 を訴える関節よりベッドの縁に突っ伏して終わった。

「そういやあいつ」

やけに遠くでリヴァルの声がする。
反射で早くも涙が滲んできた。





























「"最近気になる奴がいる"とか言ってたなぁ」





























スザクは力なく拳を握り締めた。
聞かなければ、まだ望みがあると思えたのに。
ここまで聞いてしまったら、もう立ち上がる気力すら湧かなかった。

「たっだいまー!お粥って結構うまいんだな!すっげー体に良さそう!!」

半分どころかお椀に入っていたであろうお粥をすべて平らげた様子のジノまでも部屋に 戻り、スザクの頭痛は吐き気がするほど激しくなった。
痛む頭を抑えながらスザクは、この気の良い友人たちを殴りたいと、 生まれて初めてそう思った。

- fin -

2008/5/27