空色空耳空回り


PHOTO CLUB

振り向いたら、好きだと言ってしまいそうだった。

















































知恵熱で学校を休んだ日から数日経ち、スザクは図書室に来ていた。
レポートに使った参考書を返すのを、すっかり忘れていたのだ。
今日の朝礼のすぐ後で図書委員から催促されて、スザクはようやく思い出した。
幸い返却する本は机に入れたままだったので、放課後図書室へ返却手続きをしに 行った。
当番の図書委員の嫌味にうんざりしながら図書室を後にした時、不意に胸打った 鼓動に顔を上げると、美しい紫の双眸と目が合った。

「…あ」

   っ!」

ルルーシュと学校の廊下ですれ違うのは初めてだ。
気付かない振りが出来れば良かったけれど、こうもまともに視線が絡まってしま えば無視も出来なかった。

「えと…久しぶりだね」

「ああ、そうだな」

今さら逸らした目線の先に、ルルーシュの腕に抱えられた沢山の本があり、彼も 図書室へ本の返却に来たのだとすぐにわかった。
中には大判の写真集もある。
スザクは無意識に作者の名前を覚えようとしたことに気付き、悲しくなった。
ルルーシュを構築する要素の全てを、今もまだ知りたいと望んでいる。
そんなの、あまりに不毛だ。
少しだけ気まずくなる雰囲気の中、ルルーシュも俯いて言葉を探しているようだった。
覗いた首筋が、夕日に照らされて朱くに染まっていた。

「…最近、暗室に来ないんだな」

「もうすぐギブス取れるから、早く部活に戻れるように少しトレーニングしてた んだ」

スザクは、二人で出掛けたあの日からルルーシュに会うのを避けていた。
用意していた口実は完璧だった。
実際、スザクのギブスは来週に取れる予定だ。
ルルーシュに好きな人がいるとわかっていながら彼に会うのは、今のスザクには 辛すぎた。

「そうか」

一歩、ルルーシュが近づく。
安心したような、落胆しような、曖昧な笑顔。
それでも掛けられた何気ない言葉の優しい響きに、涙が出そうだった。
廊下の窓から傾いた日差しが入り込む。
朱色の陽光で、彼の表情が見えなくなった。

「気が向いたら、また来い」

「…うん」

それ以上は何も言わず、ルルーシュは図書室へ入っていった。
すれ違いざまのルルーシュの声には、気付かない振りをして、 スザクは振り向かずに道場まで松葉杖を向けた。



























































「待ってる」なんて、きっと空耳だったから。

- fin -

2008/6/4