おいしいコーヒーと些細な嘘の関係性


PHOTO CLUB

忘れたい。
会いたくない。
でも、やっぱり。

















































「お先に失礼しまーす」

着替えの必要のないスザクは、そのままの格好で道場を出た。
久しぶりにまともに部活に顔を出したが、マネージャーの管理が行き届いた剣道 部では、怪我人に出来ることなんてほとんどなく、逆に疲れが溜まっただけだった。

「…来週までの我慢我慢」

ギブスが外れれば、ようやく普段の生活に戻れる。
きっとこの数週間を、夢だったと忘れることだって出来るはずだ。
下を見ながら歩いていたら、黒い革靴が目に入った。

「お疲れ」

顔を上げたら、目の前にルルーシュがいた。

「…どうしたの?」

「おまえ、昨日暗室来ただろう。ドアが開いてた」

「あ…えっと」

言い繕う言葉を探しあぐねいていると、それから、と彼はポケットに手を突っ込んだ。

「これ、落ちてたから」

ちゃらん、と揺れたのは見覚えのあるペンギンのキーホルダー。
二人で動物園に行った日、揃いで買ったもの。
玉乗りペンギンを模しているのか、色ガラスの玉に金属のペンギンがちょこんと 乗っている。
あの日スザクが欲しいと言った時、ルルーシュは赤を勧めてくれたけどスザクは 紫を買った。
仕返しのように、彼は翡翠色のガラス玉の付いたものを買ったのだ。

「悪いな、気付かなくて」

「ううん、僕こそ…」

後ろめたいのは、昨日彼の泣き顔を見たからだろうか。
手渡されたキーホルダーをぐっと握り締める。

「それで?」

「え…?」

「何か用事があったんじゃないのか?」

凛とした紫がスザクを射抜いた。
ゆるゆると緊張が解けゆく。

「…コーヒー」

会いにきてくれた。
それだけで。





























「君のコーヒーが、飲みたかったんだ」





























死にそうなくらい嬉しい、なんて。

現金にもほどがある。



























































その日、スザクは寮の門限を初めて無断で破った。

「コーヒー、うちに飲みにくるか?」

ルルーシュが、そう言ったから。

- fin -

2008/6/17