Sound of happiness


PHOTO CLUB

どうかどうか、幸せになってください。
最愛なるおにいさま。

















































けれどそれは、私にしかわからなかったでしょう。
それくらい、些細な些細な変化。
ただいまの声がいつもより深く優しかったこと、 不意にこぼれる小さな切ない溜息、軽やかなシャッター音、触れた指の熱さ。

そしてそのことに誰よりも戸惑ってらした、お兄様。
きっと、理由を知っていたのも私ひとり。
お兄様ですら知らなかったこと。
黙っていたのは、私自身の戸惑いとくすぐったさと、それから、ほんの少しの可愛い意地悪。
だから、お兄様が自分で気付くまで、理由は教えずにいようと決めた。

今日も、お兄様は晩御飯のあとからやけにそわそわとした雰囲気を纏っていた。
食後のお茶もすっかり飲み終わった頃になり、お兄様はようやく踏ん切りをつけたようだった。
ただ、向けられた声が電話越しの誰かでなく、私に向いていたことに驚いた。
私の不自由な目では見えないけど、きっとお兄様の視線はまっすぐに私の瞳を見ているのだろう。
それだけで、私の胸は凛とした想いで満たされる。
これはきっと、大切な一言。
何一つ聞き漏らしまいと、澄ませた耳に届いたのは、とても楽しそうな提案。




      今度の日曜日にピクニックに行かないか。




勿論喜んで、と快諾した私に、お兄様は至極言いづらそうに言葉を濁す。

「ただ、二人だけじゃなく、その…ええと…」

「あら、どなたかご一緒ですの?」

らしくなく煮え切らない声を出す兄に、ことの要点を訪ねる。
きっかけを提供してみれば、ほっとしたように握られた手の力がわずかに緩んだ。

「ああ、良いかな…?」

「その方はお兄様のご友人ですか?」

「あ、ああそうなんだ。同じ学校の・・・友達だよ」

「お兄様のお友達なら、私も仲良くなりたいです。是非ご一緒させて下さいな」

心からそう言えば、途端部屋の空気が華やいだ。
それじゃあ、お弁当は何を入れようか。
天気予報は晴れだから、ちゃんと帽子も持って行こう。
出掛けるのは久し振りだから、フィルムを買い足さないと。

とても楽しそうに弾む声を聞きながら、果たして兄の"恋人"はどんな人なのか、 私は浮かべた微笑を崩すことなく考えた。

- fin -

2008/7/19

(私はずうっと知っていました。お兄様が、恋をしたこと)