Sound of happiness


PHOTO CLUB

ギブスを外す前日、つまり写真部部室に毎日入り浸れるモラトリアムの最終日、 僕は多分不満を露わにしていた。
部活が始まれば、今までのようには放課後頻繁にルルーシュに会えなくなる。
それに剣道は大好きだけど、上級生に僻まれる毎日に辟易していたのは事実だ。
もう一度怪我でも出来ないものかと半ば真剣に思案していると、見かねたのかル ルーシュが二つ約束をしてくれた。

僕が試合に出たら、ルルーシュが写真部広報として必ず試合を見に来る、という ことが、一つ。
それから、僕の足が治ったら、ナナリーと三人で出掛けよう、ということ。
その約束だけで、わざと階段から転げ落ちるという馬鹿げた案は、一気に消し飛 んだのだ。




*




「まあ、おまえが階段から落ちたくらいで怪我をするとは思えないけどな」

「ふふ、スザクさんなら、無事に着地してしまいそうですものね」

「ええー、ナナリーまでぇ…」

僕らはルルーシュのお手製の豪華なお弁当を食べ終わり、三人でラベンダー畑の 近くの芝生に寝転んでいた。
風が吹くたびに、ハーブのぴりりとした香りが鼻腔をくすぐる。
ルルーシュがハーブ園に来たがった理由がすごくよくわかる。
初夏の太陽の気持ち良さ。少し悪戯な風。背中に当たる瑞々しい芝生。
乾いた土 の匂いと、様々なハーブが咲き乱れるここは、目を瞑ったままでもすごく楽しい。
ナナリーと僕が楽しめるように、きっとすごく考えたんだろう。

ナナリーはすごく良い子だ。
目も足も不自由だけれど、卑屈になる素振りは微塵も見せない、よく笑う子だっ た。
お弁当もルルーシュの簡単な説明だけで、一人で食べていた。きっと強い子なん だと思う。
それに、握手をしただけで僕が剣道部だと当ててしまった。
それだけなら、この豆だらけの手のひらで納得出来るけど、驚いたのはそのあと 耳元で囁かれた言葉。

「お兄様とお付き合いしている方ですよね?」

確信めいた言い方に、否定することも出来なかった。
ルルーシュは僕のことを学友としか言っていなかったはずなのに、彼女にはすっ かり見抜かれていたようだ。
その上、お兄様をよろしくお願いします、なんて頭を下げられてしまえば年長者 として恥いるしかない。
こんなに可愛くて優しくて、それから滅法聡い女の子に会ったのは初めてだ。
実は今日会うまで、ルルーシュが大切に思う人が、例え妹でも嫉妬しないか不安 だった。
だけど会えて本当に良かった。
そう思えたからこそ、ナナリーには黙っていようと思っていた今日ここに来た経 緯を話したのに、ルルーシュもナナリーも声をあげて笑った。
僕としては大真面目だっただけに、なんだか非常に不本意だ。

「スザク」

木陰に揺れる光に微睡みそうになった時、優しい声に呼ばれて寝返りをうった。

「んー…?わぁっ」

「はは」

瞬間、寝そべったままのルルーシュがシャッターを切った。
手動でフィルムを巻き上げて、またレンズを僕に向ける。
楽しそうな表情がひどくくすぐったくて、恥ずかしさから僕は慌てて起き上がり 逃げ出した。

「あ、こら逃げるなっ」

「ダメですよスザクさんっ、おとなしく撮られて下さいー!」

兄妹の賑やかな声を背中に、それでも僕は必死に逃げた。
恥ずかしくて、ルルーシュにカメラを向けられるとどうしてもうまく笑えない。




ああ。
ああ、だって。
ルルーシュのシャッターは、愛の囁きと同義なのだから

- fin -

2008/7/21

愛してるの代名詞