僕のゴッドネス


VOLLEYBALL CLUB

さようなら、悠々自適な僕のハイスクールライフ。

















































中学校の制服はブレザーだった。
だから余計に、真新しい詰め襟が窮屈に感じるのかもしれない。
はらはらと、終わりに近い桜が舞い散る。
桜の老樹の下に気持ち良さそうな木陰を見付けて、そこに腰を下ろした。
少し余る制服の袖を気にしつつ、薄桃色の花びらを眺めて、僕は一枚の紙切れと 睨めっこしていた。
とにかく実家を出て寮に入ることしか考えずに学校を決めたことが、今更ながら 悔やまれる。
責任とか期待とか、重たいものを全部捨てて、高校ではのんびりスクールライフ を過ごしたかったというのに。

「部活動が強制なんて聞いてないよ…」

握っていた入部届けの用紙が、くしゃりと歪む。
趣味なんて皆無に等しい。
体を動かすのは好きだし得意だけど、運動部に入るのはまっぴらごめんだった。
体を動かしたいなら、一人でジムにでも行けばそれで済む。
わざわざ面倒な体育会系の運動部に籍を置くなんて、馬鹿らしい。
だからと言って、部活動のリストで心惹かれる文化部もない。

「どうしよう…」

僕は何度目かの溜息をつきながら、いそいそと入部届けで紙飛行機を折った。
提出期限は明日だ。
結局良い案が浮かばないまま今日まで来てしまった。
入学して早速挫折なんて、親に顔向け出来なくて泣けてくる。
すい、と出来たばかりの紙飛行機を飛ばした。
とりあえず入部届けをなくしたことにしてしまえば、明日出せなくても教師には 怒られない…かもしれない。多分。
真っ白な紙飛行機が青空を裂いていく。
遠くに飛んで消えて欲しいと願ったにも関わらず、それは数メートル先にいた人 の足元に落ちてしまった。
無視してくれることをこっそり祈ったが、その人は落ちてきた紙飛行機を丁寧に拾い上 げた。
中を見たのか、僕の座る桜の木の方に向かって来る。
逆光のせいで良く顔が見えなかったが、紙飛行機を拾った彼は、高く澄んだ声を していた。

「部活動、まだ決めてないのか?」

「まあね」

拾ってくれたなら、すぐ返してくれれば良いのに、彼は入部届けを持ったまま僕 に話かけてきた。

「おまえ、枢木スザクだろ?」

「あ、うん」

「去年のバレーボール全国大会優勝校鳳凰中学キャプテン兼最優秀選手賞、得点 王、ブロック賞、サーブ賞を総ナメにした、枢木スザクだな?」

「え…」

僕はぎくりと僕は固まった。
改めて聞くと、なんて大層な肩書きなのかと、まるで他人事のように思う。
まさかこんなところでバレーボールの話になるなんて思ってなかった。
でも、もう自分には関係ないことだ。
バレーボールなんて、中学卒業と一緒に辞めた。
徹底的に縁を切るつもりで、山ほどあったスポーツ推薦も蹴って家まで出たのに 、またバレーボールと関わるなんて、冗談じゃない。
別にバレーボールが嫌いな訳じゃないけど、特別好きでもなかった。
それなのに期待と重荷だけが増えて、中学の後半なんてちっとも楽しくなんてな かった。

「…それが、何?もしかして君バレー部なの?」

「半分当たり」

「半分?」

勧誘だったら絶対に断ろうと身構えていると、彼は一歩僕に近付いてきた。
同じ木陰に入ると、影になっていた彼の顔がよく見えた。

「マネージャーなんだ、俺」

笑うと、赤すぎるほど色濃い唇が綺麗に弧を描いた。
白い頬に繊細な影を作る睫毛の奥で、菫色の瞳が光る。
絹糸のような髪が揺れるたび、眩しいくらいに光が弾けた。
それがあんまり綺麗で、僕は口を開けたまま、多分とんでもなく間抜けな顔で彼 に見惚れていた。
もしかして女神様かなんかじゃないのかと馬鹿なことを考えていると、目の前の 女神様は微笑を深めて、天使の笑顔で悪魔のようなことを言った。




「おまえが欲しい、枢木スザク」

     だから、入部してくれるな?




ドラマのような熱烈な口説き文句に逆らうすべもなく、僕はYESと即答した。
こうして呆気なく、僕の平穏な高校生活は終わりを告げた。

- fin -

2008/7/15

枢木スザク…おまえは、アッシュフォード学園の柱になれ!