俺のヒーロー


VOLLEYBALL CLUB

試合終了のホイッスルが、歓声を引き裂いた。

















































出会った頃は俺の方が高かった身長は、わずかに追い抜かれてしまった。
試合に負けるたび泣いていた彼は、いつの間にか泣かなくなった。
始めはとんと集中していなかった練習も、今では誰より真剣に取り組んでいる。

ルルーシュが好きなのと同じくらい、バレーも好きになれたよ、と笑って言っていたのは、 この大会の前だったろうか。
少しずつ、少しずつスザクは変わっていった。
今、目の前で笑うのがスザクだなんて、信じられないくらいだ。

「ああ、どうしよう。ねえ、泣かないでよルルーシュ」

泣かないで泣かないで、と繰り返しながらも、スザクは困った顔ひとつせず、真 っ赤に上気した頬を緩ませてただ嬉しそうに笑っていた。
ぼろぼろと、俺の目からは涙が零れ落ちる。

おかしい。おかしい。おかしい。
去年も一昨年も、この日泣いているスザクを慰めるのは自分だったのに。
「来年は絶対勝つから」と泣きじゃくるスザクの癖毛を撫でて、おまえは頑張っ たよと心から言った。
そうやってスザクが泣くことがないように、いつだって次に向けての練習メニュ ーと作戦を構築していたから、チーム全員が泣くことがあっても、俺だけは決し てそんなことなかったというのに。
みっともなくて恥ずかしくて仕方ないのに、涙も嗚咽も止まる気配がない。

「う、…っあ」

「えへへ」

しゃくりあげすぎて、息が苦しくなってきた。
それもこれも、全部スザクのせいだ。
目の前でヘラヘラ笑いやがって。
胸に抱いたスコアブックは溢れた水滴で破れてしまった。
これはきっともう使い物にならない。
ふと、キャプテンである彼がこんなところで油を売っている暇がないことを思い 出した。
慌てて胸元を押し、観客席へ行くように促した。

「…ばか。おまえ、こんなところにいないで、挨拶、」

「だって僕、まだルルーシュから聞いてない」

少しだけ離れた距離に不満を示すように、つんと唇を尖らせた。
こんな子供っぽい仕草は、とても後輩に見せられないと思った。
言うべきことは山ほどあるのに、そんなことしか頭に浮かばない。
出てくるのは、壊れた涙腺が流す水分だけだ。

「…本当はルルーシュから聞きたかったんだけど、仕方ないなぁ。じゃあ、僕から言うね。あのね、君のために勝ったんじゃなくて、ルルーシュがいたから、僕は頑張れんだ。だから…」

続く言葉は、手にしていた長いタオルでスザクの頭を包み込んで遮った。
それは、誰より先に俺が言わなければならない台詞だ。
いくらスザクでも、譲るわけにはいかない。
タオルの両端をぐっと握って、その頭を引き寄せる。
だだっ広い体育館のど真ん中、タオルで隠したスザクの唇に乱暴にくちづけた。
一瞬の静寂。
歓声も、興奮も、今は何ひとつ聞こえない。

初めて交わした会話を、スザクは果たして今でも覚えているだろうか。

(あの時より俺はずっと、もっと、おまえの全部が欲しいよ)

スザクが変わったように、知らぬ間に自分も変わっていたんだと、初めて知った。





























「…優勝おめでとう、スザク」





























試合後の火照った身体は火傷しそうなほど熱くて、汗が塩辛かった。
一瞬、泣きそうになった顔を振り切って、スザクはルルーシュの望む笑顔を見せてくれた。
晴れやかな英雄の顔を、まっすぐ、誇らしくみつめる。



















ありがとう、おまえはずっと、俺のヒーローだったんだ。

- fin -

2008/10/4