アタック☆オンリーワン  お・ま・け!


VOLLEYBALL CLUB

今年のバレー部大当たりだと、学園ではまことしやかに囁かれる。
ベビーフェイスの、次期チームを担うであろうエース。
眩しいほど華やかな、溌剌とした期待のルーキー。
さらに、誰より麗しく強い瞳のマネージャー。

けれど何より忘れてはならないのは、善良な一部員なのです。

















































「バレー部でぇす!よかったら見学に来てくださぁーい☆」

目に染みるような赤色のユニフォームで、可愛らしく一人キャピキャピと跳ね回るバレー部のエースを眺め、通 常ユニフォーム着用のリヴァルは目を丸くした。
昨日、「女装なんてしたくない…」と部室で膝を抱きながらしくしく泣いていたなんて、今の光景を見る限りと ても信じられない。

「…どしたの、スザクの奴急にノリノリじゃん」

「ふっ、メンタルケアもマネージャーの仕事だからな!」

隣に佇むルルーシュは高笑いまじりに、それは偉そうに言い放った。
が、実際のところルルーシュが"恋人"のために何かしたのは明白だった。
先日の部内会議で、今年度の部則を改める際、『恋愛禁止』の項目がこっそり削除されていた。
しかしルルーシュはこの一年で、バレー部のありとあらゆる権力を掌中に収めた。
いまや、マネージャーのルルーシュは部長は勿論、顧問などよりも余程権限がある。
上級生ですら突っ込めるような猛者はおらず、要するにルルーシュとスザクは、今更ながら部内公認になったの だ。
はたと、そこでリヴァルはあることに思い至った。

「…でもさ、おまえが男と、それもバレー部内で付き合ってるなんて知ったら、あいつ怒るんじゃねぇの?」

「あいつ?…ああ、そういえば、入学式も終わったのにまだ見学に来ていないな」

「でもバレー部には入るだろ」

「当たり前だ。スザク並にハイスペックだからな、あれは。それだけバレーが出来る新入生なんて、そういない から、な…っ!?」

「ルっルーシュせんぱーい!!!!」

どーん!と思い切り体当たりされて、ルルーシュの細い体がぐきりと折れた。
あ、死んだかも。
一瞬だけ、リヴァルはそう思った。

「それ俺?俺のこと?俺のことだよな?今、俺のこと褒めてくれただろ?わーい、やったー!!」

「…っぐ」

当人にそんなつもりひなかったのだろうが、長い腕がルルーシュの首に巻きつき、完全に締め上げていた。
部員に混ざっていても遜色のない程度にそこそこ身長であるルルーシュが、今は小さく見える。
なにしろ、比較対象がでかすぎるのだ。

「ジノ、そろそろ離れないとルルーシュが死ぬぞー」

「へ?」

中等部からの後輩である彼は、何かとスキンシップ過多の傾向がある。
ジノ・ヴァインベルグは慌ててルルーシュを解放すると、にっこり笑った。
鮮やかなスカイブルーの瞳と、きらきらした金色の髪が眩しくて、真夏の太陽のような印象を受ける少年だ。
少年と言うには、些か身長が飛び抜けてはいるけれど。

「久しぶり!先輩っ!」

「ああ、相変わらず元気そうだなジノは」

「リヴァル先輩もひっさしぶりー!」

「おー。でも意外だったな。おまえ、中等部の部活引退したらすぐにでもルルーシュに会いに来そうだったのに 」

「俺もそうしたかったですよー!!でも先輩がぁ、卒業まで中等部の面倒見なきゃ高等部でバレー部に入れないっ て脅したんです。酷いでしょ!?」

「仕方ないだろう。俺はこっちで手一杯なんだから。だが大切な弟が日々キャプテンとして苦心しているのを放 っておけない。そこでおまえが指導を受け持てば完璧というわけだ。あとエスカレーター式だからって、遊び呆 けて基礎体力が落ちたらどうするつもりだ?」

「はいはい。ちゃんと毎日コーチしてたし体も鈍らせたりしてません。あ、ロロも大分キャプテンが板について きましたよ」

「…そうか、それは良かった」

ロロ、と弟の名前が出た途端、ルルーシュの表情がふわりと優しげに綻ぶ。
ロロはジノのさらに一つ下の学年にあたる、ルルーシュの双子の弟妹の一人だ(ちなみに妹の方のナナリーちゃ んは、やはり同じく中等部で女子バレー部に所属している)
リヴァルたちが中等部在学時には人見知りが酷く、ついでに兄のルルーシュにべったりでと、とてもチームプレ イに向いているようには見えなかったが、プレイは兄仕込みでそつがなく、指揮官には案外向いていたらしい。
弟の活躍を心から喜ぶ様子で、厳しいマネージャーの顔が弟思いの兄の顔になり、それは嬉しそうに微笑んだ。

「そうだ!そんなことよりルルーシュ先輩!中等部で噂になってるんですけど、高等部行ってからバレー部の部 員と付き合いはじめたって本当ですか!?」

「…まあ、そうだな」

「酷い!俺が中学で散々告白したのは無碍にしておいてっ!!」

「悪いが今は、エースじゃないやつに興味ないんだ」

同性や年齢を引き合いに出さないバレーボール馬鹿のルルーシュは軽く笑い、ジノはまだ文句を言っていた。
呆れてながらリヴァルがそれを眺めていると、同時にぞくりと悪寒が走った。

「ねえ君、誰?」

振り向くと、ユニフォームに身を包んだ笑顔の美少女(誤)がいた。
しかし、少女ではありえないほどに声が太い。
ウィッグのポニーテールがいまにも逆立ちそうな雰囲気で仁王立ちしている。

「す、スザク…」

腕に抱えたバレーボールが若干変形してるのは、気圧が足りていないせいだと信じたかった。
新入生が入ってくるこの時期はボールひとつだって貴重な備品なのだから、破損は勘弁してほしいのだ。
しかしこれだけスザクが殺気立っているのに、ルルーシュもジノも意に介さない。
リヴァルの背中に冷や汗が流れた。

「ああスザク、こいつは中等部から後輩のジノだ。バレー部に入るから覚えておけ」

「ジノ・ヴァインベルグです。中等部では一応エース・アタッカーでした。よろしく!!」

「へえ…」

「それで、こっちがスザクだ。スザクは外部入学だからおまえ顔は知らないよな?学年は俺と一緒だ」

「…よろしく」

明らかに気分を害しているスザクをよそに、ルルーシュはお互いを紹介していく。
スザクは自分より上背のあるジノを下から睨んでいたが、ジノの方は興味深そうにスザクを上から下まで眺めて いた。
そして唐突に爆弾を落とした。

「それにしても先輩、随分可愛い格好ですね!」

ぴしゃーん!!!!!とスザクの顔が一気に強張った。
恐らく男として見下されたという屈辱を、この上なく味わされているのだろう。
だがそれ以外の意味があることを、多分スザクは忘れている。
新入生勧誘で女装するのはバレー部のエースだということは、新入生では付属校のメンバーだけが知っている伝 統なのだ。

「でも安心して下さい!来年は俺がそれ着ますからっ!!」

「…は?」

「スザク先輩はエースなんでしょ?毎年アッシュフォードのエースは三年生だったから年功序列で無理だと思ってたんだけ ど、先輩が出来たなら俺にも出来ますよね!」

「いや…おまえじゃさすがにこのユニフォーム入らないだろう?作り直すんじゃ部費が、」

「お、おいジノ、いくらなんでもそれは…っ。あとルルーシュはちょっと黙っててくれるっ!?」

「はぁ?なんだ失敬な」

「大丈夫ですって、部費なんて学園から頭下げて出したくなるほど、俺が今年活躍しますから」

「………っ!!」

「そうだな…まあ、それなら良いか」

「だからルルーシュは黙れってえぇえええ!!」

「うるさいぞリヴァル、さっきからまったく」

「で、エースになったら、ルルーシュ先輩は俺のものになってくれるんでしょう?」

にこにこと良い笑顔であっけらかんと言い放ったジノに、リヴァルのフォローも虚しく、とうとうスザクの血管 がブチ切れた。
あれだけ嫌がった真っ赤でラブリーなユニフォームを握りしめ、スザクは絶叫した。







































「ルルーシュもこのユニフォームも俺のものだあぁぁぁあああああっ!!!!!!!」







































おかげで当初の目的通り、赤いユニフォームは多々ある部活動の中で一際目を引いた。
そして現エースと期待のルーキーと、そして眉目秀麗なマネージャーが、さらに注目を集めるに至った。
しかしその影で、今後の苦労に頭を抱える平部員が一人、本気で退部を考えていたという。

- fin -

2008/5/1

はたしてチーム力は上がるのか否か。